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ようやく悲願達成

 五月二六日、この日も今までと同じように新人賞受賞の知らせの電話は来ないと思った。毎年のことながら、この日は一分一秒がとても長く感じられる。仕事をして何とか気を紛らわそうとしたがまったくダメだった。


 それでも少しずつ時間が経ち、もう日が沈みかけていた。今年もダメなのかな…と思い、仕事をいつもよりも早く仕上げて、早速、願掛けを解いて久しぶりに酒を飲もうと思ったときだった。


 すっかり飾り物になっている仕事場の電話が勢いよく鳴り出した。いつも、携帯しか使わない僕にとって、このことはかえって新鮮に思えた。


「はい、もしもし、こちらは南風新の仕事場です」


「もしもし、南風新さんですか?」


「はい、そうですが…」


「私、大衆文学社、月間大衆文学、大衆文学新人賞担当をさせて頂いております山田と申します。今、お時間は大丈夫でしょうか?」


 新人賞担当の山田さんはもったいぶった口調で回りくどく話を進めるのであった。待たされている身としては単刀直入で結果だけ教えてもらえるほうがありがたい。


「はい、大丈夫ですけど…」


「今回、お電話を差し上げましたのは新人賞のことについてです。本日、最終選考が行われた結果、南風新さんの『日付は進む、されど就職は決まらず』に新人賞を与えることが決定致しました。本当におめでとうございます。さて、授賞式についてですが…」


 授賞式のことなんか、もはやどうでもよかった。ただ、大衆文学新人賞を取れたと言う知らせが聞けただけでよかった。先生の所に弟子入りしてから大衆文学新人賞を取ることだけを目標にしてきた。


 今日までの道のりはけして楽な道のりではなかった。たくさん遠回りしたし、何人もの後輩に追い越されもした。でも、全てはこの日の喜びを大きくするためにあったのだ。


 このことを早速、先生にも報告した。この日、先生は学校で仕事していたので、仕事場に戻ってくるのを見計らって直接先生に伝えた。先生は自分のことのように喜んでくれた。あおいも自分のことのように喜んでくれた。


「兄さん、もうこれからは小説だけでなく、もっと他のことも楽しんでもいいのではないですか? 私、あきらめてませんからね」


 もういいかげんあきらめたらいいのに…。どれだけ一途に愛してくれても、僕の心には何も芽生えることはなかった。やはり、小説と引き換えに恋愛感情のたぐいを失ってしまったのだろう。


 極端な話、僕は小説と結婚したのだ。だから、今さら人間の女性と結婚できるはずもなかった。このことを彼女がわかってくれれば、どれだけ楽になれるだろうか。でも、いつか彼女もわかってくれるだろう。世の中には叶う恋よりも叶わない恋の方がずっとずっと多いことを。


「じゃあ、来週末にでも我が一門だけの祝会をやるか! 肥前、司馬と車車車に連絡してくれ。越前、長かったなぁ…君は私と似て、結構苦労してきたからな。他の才能にモノを言わせて楽してきた連中とは受賞の重みが全然違うよ」


「先生、本当にありがとうございます。これも全て先生のおかげですよ。これでしゃしゃ丸…じゃなかった車車車にも一泡ふかすことができます」


 二年前のあの日からしゃしゃ丸には見下され続けたが、今はもう違う。同じ立場にいる今、苦労をせずに新人賞を取った人と苦労して新人賞を取った人の差の大きさは歴然としている。ここからはその力の差を存分に見せつけることができる。


 その後、マガジーンヌで一緒に仕事をしている円熟こうじ先生や、かつて一緒に仕事した新聞社・スペイン書院の方からも祝いの言葉を頂いた。僕は改めて、これが新人賞なんだと実感した。

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