作家養成プロジェクト
作家養成プロジェクトは思いのほか、うまくいった。秋にはここから文学新人賞をとって文壇デビューをした者が出たこともあって、常に注目され続けた。
そのせいか、青天出版と関係ない人でもこのプロジェクトに参加したいと言う問い合わせが後を絶たなかった。また、倒産後の再建成功例としても大きく注目されることとなった。
一方、ここで小説の書き方について学んでいく中で、己の才能のなさに挫折して、ここを去っていく者も後を絶たなかった。
また、経済的な理由から作家の道を諦めて、新たに仕事を始めた者も多かった。講師陣からも「これでは本業が成り立たない」と言う者まで出始めた。
プロジェクトから一年が経とうとしている中で僕自身も迷っていた。このままプロジェクトの講座を受け続けるべきか、それとも外の道を模索するべきなのか迷っていた。
これまでは旧会社側の協力もあって格安で講座を受けることができた。しかし、旧会社は負債の清算を済ませて、三月には破産管理団体も解散してしまうので、プロジェクト自体がどうなるのかわからなかった。
幸い、プロジェクトは作家養成学校に組織を変更して存続することが決まったが、講座料の大幅な値上がりは避けられそうになかった。
旧会社ビルを買い取るのにお金がかかるとのことだった。これでは、バイトをしながら講座を受けることは不可能だ。もはや、ここまでか…と思った。
「南条君、ちょっと大切な話があるのだけど、今から私の仕事場に来てもらえませんか?」
御金持先生の講座が終わった後、教室を出ようとしたときだった。突然、先生から呼び止められた。今まで先生に呼び止められたことなんかなかったので、戸惑いを隠せなかった。
何より先生に名前を覚えてもらえたことがうれしかった。本当はこの後、バイトがあったが、バイト先にはどうしても外せない急用が入ったと連絡して、先生の所に行くことにした。
先生の車に乗せられて、僕は先生の所へと向かった。旧会社ビルから先生の仕事場まで車で三〇分ほどかかった。仕事場はこじんまりしていて寂しかった。