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赤野あじさいのサプライズ

 さて、新聞小説と青年コミックの原作を仕上げるか。地道な努力の甲斐あって、三月から少年誌の「マガジーンヌ」で漫画家とタッグを組んで冒険物語「ロード・オブ・ザ・スティック」を書くこととなった。


 僕が原作を書いて、円熟こうじ先生が漫画に仕上げてくれる。それに合わせて、青年コミックの仕事は二月で終わることとなった。


 三月末、姉さんは書くネタを探すために海外に行くことになった。しかも、青年海外協力隊の村落開発員としてである。話によれば、南米のコロンビアに行くらしい。


 あまりに突然の出来事にみんな言葉を失った。一度、青年海外協力隊で海外に行くと二年は戻ってこれない。しかも、海外へ行く前に国内の訓練所に入って、三ヶ月ほどその国の言語やら青年海外協力隊員として教えるべきことについて勉強させられるらしい。


「姉さん、ご主人さんはどうされるんですか?」


「あれっ、知らなかった。私、離婚したのよ。やっぱり、お金だけで結婚相手を選んだらダメね」


 半年前と言うと、みんなで仕事場を引っ越した時にはもう離婚していたことになるぞ…。どうして、教えてくれなかったんだろう。


 先生とあおいはすでに知っているようだった。兄さんと僕だけが知らないようである。ちなみにしゃしゃ丸は姉さんの送別会に来なかった。


「赤野さん、一年前に出した『ミラーボールの虚像』が直本賞にノミネートされたでしょう。もし、選ばれたときはどうするの? それに二年間も作家活動を離れるといろいろと大変だよ」


 兄さんが最もらしいことを言った。確かに姉さんは順調に活動の幅を広げている。このままいけば、歴史に名を残すだろう。しかし、今はまだそこまでいっていない。


「私は兄さんみたいにコツコツ書いていくタイプではじゃないです。生活と小説を連動させながら、派手なパフォーマンスで下手な小説を売るような人間です。ボンテージも結婚もJICAも全て私なりパフォーマンスなんです。これをやめれば私みたいなのはすぐにこの世界から抹殺されますよ。それと直本賞については、私、ノミネートされただけで満足なんです。多分、あの人が選ばれると思うから、私は選ばれないと思いますよ。きっと…」


 あの人とはしゃしゃ丸のことである。彼は新人賞受賞作でありながら、ミリオンセラー達成とテレビドラマ化させた功績が評価されたようだ。


「この世界は本の売れ行きが全てとまでは言いませんけど、それに近いものがありますよね…。人間性とかはまったく評価の対象になりませんから」


 僕は姉さんをかばうつもりが、自分をかばうような発言をしたことを少しばかり後悔した。


「まあ、多少人間性に問題があるかもしれんが、車車車のことを悪く言うな。あいつは今、新婚生活やら子守りやらで忙しいんだろうよ。あんな若いうちから苦労しなくてもいいのに…。まあ、その苦労はきっと今後に反映されるに違いない。そうすれば、あいつも少しは丸くなるさ」


 さすが先生である。弟子がどんな人間であろうとも広い心で受け入れる。僕は先生への尊敬の念を益々深めていくのであった。


 その後、先生はせっかくノミネートされたのだから、二人とも選ばれるといいのにと言っていた。また、姉さんに対しては無事に二年間の任期を終えて帰ってきてくれと伝えている。


「コロンビアは麻薬の密輸ルートらしいから、危ないと知り合いのルポライターが言ってたぞ。あと、マラリアとデング熱には気をつけるように。餞別をあげるから、これで虫除けスプレーと蚊取り線香を買いなさい」


「先生、ありがとうございます。必ず、元気な姿で帰ってきますから…」


 それにしても姉さんのやることにはいつも驚かされる。この人は頭のてっぺんから足先まで全てが自分と小説をどう売るかに使われている。


 そして、その答えはいつも簡単に常識の壁を壊してくれるし、自分が何とちっぽけな檻の中に捕らわれているのかを気付かせてくれる。

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