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御金持好先生の発言

 そのときだった。一人の男性が手を上げた。その瞬間に誰もが静かになった。この場にあの有名な御金持好(おかねもち このむ)先生がいるとは誰も思いはしなかった。しかし、よく見てみると庶民に紛れて著名な先生方の顔もちらほらと見られた。


 後でわかったことだが、彼らは青天出版から高額の原稿料と引き換えに原稿を依頼されていた。しかし、今回の倒産のあおりを受けて、原稿料がもらえなくなった。彼らもまた被害者だった。いろんな会社に作品を提供している人はまだいいとしても、仕事の少ないプロにとっては死活問題である。


「お互いをののしり合ったところで何が生まれると言うのですか? 意味がないでしょう。そうじゃなくて、もっと建設的な話をしましょう。今、青天出版は倒産したことで注目されています。それを利用するのです」


先生の話に会社側もプロも素人も全てが耳を傾けた。先生はこれをきっかけに「プロが素人を一人前の作家に育て上げるプロジェクト」を立ち上げてはどうかと問いかけた。もちろん、会社側も清算手続きを進める中で可能な限り、広告や場所の提供に協力することになる。


しかし、この話にほとんどの人が乗り気でなかった。このままではせっかく建設的な話が出てきたというのに、また元に戻ってしまう。僕は手を上げた。


「御金持先生の提案はとてもすばらしいものです。私は小さい頃からずっと小説家になるのが夢でした。だから、何度も何度も作品を書いては文学賞に応募しました。しかし、何度挑戦してもダメでした。一度は全てをあきらめて家電量販店で働き出しましたが、やっぱりあきらめきれませんでした。だから、自費出版でも本が出せることが決まったときは本当にうれしかったです。これを足がかりにまた働きながら小説家の道を目指そうと決めました。ところが会社は倒産して、このままではまた何もない状態に戻ってしまいます。だから、先生の提案に全てをかけてみたいと思ったのです。プロの元でみっちり育てて頂ければ私のような人でもチャンスが出てくると思います。本が出せなくなった今、私は先生の提案に全てをかけてみたいのです」


とりあえず今思っていることを全部吐き出した。これで先生の提案に一人でも多くの人が乗ってくれればいいのだが…。ふと、先生の方を見ると、先生が頭を下げてくださったので僕も頭を下げた。ここで三〇代ぐらいの女性が手を上げた。


「私だって、さっきの男性の方と同じようにどうしても作家になりたくて自費出版に踏み切りました。本が出ない上にお金が戻ってこないことはくやしいけど、会社が倒産した以上しかたのないことです。それよりは自費出版が中心とは言え、出版社として培ったノウハウを使って、先生がおっしゃっていた提案に協力して頂きたいのです。もし、会社側がこの提案に協力してくれるなら債権を放棄してもかまいません。先生の提案は私にとって最後のチャンスだと言っても過言ではありません」


これはいい流れだと僕は思った。この女性の発言をきっかけにして前向きな発言が増えた。そして、先生の提案に会社側もプロも素人もほとんどが賛同した。こうして、予定を二時間も過ぎた説明会は実りある形で終わった。


 中には債権放棄に納得できず、途中退室する者もいた。当然、債権放棄をしない者達は後日改めて、元社長と管財人との協議を引き続き行うことも決まった。


翌日、新聞とテレビはこぞって青天出版の債権者救済策に注目した。また、この案を提案した御金持好先生も大きく注目された。「取れない果実よりも夢の道を選んだ債権者」の見出しが至る所にあふれていた。


 債権者はほぼ全員債権放棄する代わりに、会社側は作家養成プロジェクトに全面協力する。プロジェクトの講師となるプロにしても注目されることで今までに出版した本が脚光を浴びるというメリットがあった。

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