ライターズハイ
一二月に入り、朝晩の冷え込みが厳しくなり、仕事場の外の景色もすっかり変わった。道路に植えつけられていた落葉樹は葉を落として寒そうにしているし、公園の芝生は茶色くなって元気がなかった。
北風と子ども達だけが元気だった。僕らにもあんな時代があったはずなのに…。寒さに負ける事なく、外でひたすら遊び続けた子ども時代…。しかし、大人になった今、冬になったら家にこもってこたつで暖をとりながら、鍋をつづくことぐらいしか楽しみが無くなってしまった。
今、仕事場で話題になっているのは毎年恒例の忘年会についてであった。一門ではすっかり恒例になっている忘年会だが、僕にとっては初めてなので先生や兄さん、姉さんの話を聞いてもまったくピンと来なかった。
話によれば我が一門だけではなく、他にも先生と同じように弟子を取っている小説家やその弟子が集まるらしい。そこではいろいろな小説家が集まるのでいろんな情報が手軽に入るとのこと。
忘年会の日、先生と僕はいつもよりも早く仕事を切り上げて、赤坂の料亭へと向かう。到着した時にはすでに、他の先生方が数名来られていた。
普段は別々に仕事している人も集まってきて、さまざまな話で盛り上がった。その中でも特に印象に残ったのが「ライターズハイ」についての話であった。
これは小説家であれば、誰でも経験したことがあるものらしい。書き始めは苦痛が伴うものであるが、書いているうちにそれが快感に変わっていく。ライナーズハイと違って肉体の限界がないので、その快感はどこまでも続いていくし、どんどん深まっていく。それこそ、食事や睡眠を忘れるほどのものらしい。
しかも、いいモノが書けているときほど、ライターズハイは長く深く続く。記録によれば四日間、コーヒー以外は何も食べずに三日徹夜で原稿用紙一五〇枚書き上げたとのこと。その後、その人は軽く食事を取ってから二日間ずっと寝ていたようだ。ちなみにこの小説は一〇〇万部の売り上げ記録を残した。
話を進めていくうちに売れっ子のほどライターズハイになった回数も多く、一回一回が深いものであることがわかった。僕はライターズハイになったことは一度もなかった。どおりで小説家として、まったく芽が出ないわけだと妙に納得してしまった。やっぱり、この仕事向いてないのかな…。妙に弱気になったりした。
そんなことはないさ。人は人、自分は自分、人によって書くスタイルが違うんだから、無理に同じ尺度で考える必要はない。弱気な自分を打ち消すために強がってみたりもした。
ライターズハイに頼らなくても、自分のペースでコツコツと作品を積み上げていけばいつかは日の目を見る日が来るさ…。僕はそう何度も自分に言い聞かせる。




