裁判所からの通知
仕事帰りにくたくたになりながらポストをのぞく。そこにはどうでもいいフリーペーパーやら広告やらがどっさり入っていた。それを左手に持つ。
右手の慣れた手つきで鍵を取り出し、鍵を開ける。家に入ると、すぐソファーの上に倒れ込んだ。そして、ポストに入っていた物に一通り目を通す。そのとき、何かがパサッと音を立てて床に落ちた。封筒が紛れていたらしい。封筒を拾うために体を起こす。封筒には東京地方裁判所と書いてあった。
なんで裁判所から手紙が来たのだろう。なにか悪いことをしたわけでもないのに…。まったく思い当たりがない手紙ほど不気味な物はない。あれこれ考えても何も始まらないので、とりあえず封筒を開けてみる。
すると、「破産開始通知書」と書いてある書類と「債権者説明会について」と書いてある書類が一枚ずつ入っていた。ますます、訳が分からなくなったので、詳しく読むことにした。
青天出版が三月三一日をもって倒産しましたので…。
えっ、何だって…。青天出版が倒産? それは困る。今、青天出版と話を進めている自費出版の話はどうなるんだ。こっちはすでに一〇〇万円をつぎ込んだ後なんだぞ。
まさか、倒産と同時に自費出版の話もおじゃんになるんじゃないだろうな…。これはソファーの上でボーっとしている場合じゃない。僕はパソコンの前に座って、早速集められるだけの情報を集めた上で一週間後の債権者説明会に臨むことにした。
「おい、ふざけるなよ。どうして倒産前に次々と自費出版の話を持ちかける必要があるんだよ。誰が見てもお金をかき集めた上での計画倒産だろうが! 本を出す気がないならお金を返せ!」
「そうだ! そうだ! お前らのやっていることは詐欺者とかわらんぞ!」
思っていた以上に説明会の会場は殺気立っていた。そりゃ、そうだ。出す本によって多少変わるが一冊の本を出すために一〇〇万円前後出している。それなのに、本は出版されない。
その上、お金が帰ってこないとなれば、こうなるのも当然と言える。出版社の元社長はただ謝っているだけだし、管財人はひたすら「もう破産宣告をしましたので、どうすることもできません」を繰り返すばかり。
もっと建設的な話をすると思っていたのに…。こんなことなら、わざわざ会社を休んで来なければよかった。
朝の十時から始まった説明会は終了予定の正午になっても一向に終わる気配がなかった。それどころか混乱がますます深まってきた。いつ、乱闘がおきてもおかしくない状態。
実際に小競り合いはすでに起きていた。元社長と管財人の木で鼻を括るような態度に怒りを覚えて、元社長と管財人に飛びかかろうとした中年男性が警備員三名に取り押さえられている。その時、辺りはさらに騒然としていた。
話では中年男性は三冊の自費出版の話を進めていたらしい。そうなると、三百万を青天出版に支払っている事になる。さすがに三百万円が一瞬で無くなった上に本も出せないとなれば、我を忘れて飛びかかりたくもなるだろう。