92 先輩たちと──あわわ!
「あのー、友達でも嬉しいもんでしょうか? 今までそういう経験ないから……でも好きって言われたら大抵嬉しいですよね」
首を傾げながら上目遣いで見上げると、先輩はそれはそれは艶やかに微笑んだ。
「俺もカズのこと好きだよ?」
台詞だけでもはわーっ!って更に鼓動が激しくなったのに、そのままチュッて唇の端にキスを落とされて。
死ぬ!
絶対興奮しすぎで死ぬよ……心臓爆発するーっ!
酸素不足で口をパクパクさせていると、
「どう? 同じだったか?」
確認するようにじっと待っている目をされた。
どう、なんだろ……。そっと深呼吸して、違いがあるか、考えてみる。
凄く興奮したし、嬉しかった。だって憧れの浩司先輩の腕の中でさ、好きだなんて言われてキスされたら、俺じゃなくて辰だって同じように感じると思うよ。
もう、一生モンの宝物! みたいな。
だって先輩目指してここまで勉強とか頑張ってきたんだもんな。嬉しくない筈がないっていうか。
うーん……でもやっぱりちょっとだけ何かが違うような……でも違いが判らない。キューと一緒だ。
「なあ、浩司のことは元から大好きなんだから紛らわしいだろ」
思考している俺の真上に、ひょいとウォルター先輩の美麗な面が差し込まれた。
「俺もカズくん好きだよ?」
チュッ。
てえぇーっ!? 今まともに唇のど真ん中にしやがりましたねっ! 王子め!
びっくりして涙目になっていると、
「やーい、嫌がられてやんの」
浩司先輩が勝ったと言わんばかりにケタケタと笑い出した。慌てて首を振る。
「いやあの、嫌とかそういうんじゃなくて流石にそれはないだろうと思ってびっくりしてですねっ」
「でも嬉しいとか幸せとかじゃねえよなー」
念を押すように浩司先輩に問われ、それはそうだなと頷いた。
「なにそれ失礼なっ! 金払ってでもキスしたいって言われるのにさ」
ぷんすか怒ったような口調と表情だけど、瞳が冗談だよって語っている金髪王子。
うん、確かに女性陣ならそんなことも言うかもしれない。
釣られて俺もぷぷっと噴き出してしまった。
ひとしきり笑い合って、その輪の中に入ってこない周に気付いて表情を引き締めてから声を掛けてみた。といっても、浩司先輩の膝にいるこの状況じゃあなんか真剣味が足りねえけどそこは見逃して欲しい。だって自分から下りるなんて勿体無いことできっこないよ!
それはともかく。
「周? あのさ、どうして智洋だって思ったの」
肯定も否定もしないまま、普段通りを装ったつもりで尋ねる。視線を落として思考していた周が、強張った笑みを貼り付けて顔を上げた。
ふらりと目線が揺れて一拍考えて、ふうと息をついて前髪をかき上げて正座から足を崩して胡坐をかいた。
「──今だから言うけど、氷見と栗原が俺と同じようにカズのこと好きなのは知ってたよ。んで、出掛けた時にもう態度でうすうす判っては、いた……かな」
「そっか……」
智洋、前からすげー過保護な感じだったもんな。特に周に対してはめっちゃ刺々しいというか。それでも、俺は友人として守ろうとしてくれてるんだなって思ってたんだけど、周は気付いてたんだ。
んー? でも携も? それは周の勘違いじゃねえのかなあ。
「カズは」
呼びかけられて、今度は俺の方が思考を断ち切られる。
「もう、あいつじゃねえと駄目なのか?」
深い闇の色の瞳に引き込まれそうになり、思わず先輩のシャツの胸元を握り締めてしまった。
『はっきりさせないままあちこちにいい顔をしていると、いつか酷い目に遭う』そんな内容のことを、先輩に告げられて。それから時々考えていた。それでも、友達として、周のことが好きだ。今でも。
けど……だからこそ、変な期待を持たせたままじゃいけないんだよな、きっと。
先輩、勇気を下さい。
握った手が震えて、気付いたのか先輩が優しく背中に手を添えてくれた。
視線は周から外さないまま、その温もりに安堵する。




