91 そんなに顔に出るのかなあ
遊戯室に入っていくと俺が最後だったみたいで、三人に注目されてしまった。
「あ……遅くなってすみません」
ぎりぎり時間前だと思ってたけど、軽く頭を下げて順番に顔を見る。
浩司先輩、今日もかっこいい! 金髪王子と二人、また素肌に開襟シャツ一枚ってのが色っぽいです。でもなんで二人ともちょっと驚いたような表情? なんか変なのかな、俺。歯磨きの時に髪とかチェックしたけど、別に変じゃなかったと……。
周も最初は目を見開いてたけど、今は眉を寄せて苦笑してる。なんだってんだ。
自分のキューどれだっけと壁際でまた悩んでいると、スッと寄ってきた浩司先輩が背中越しに手に取って渡してくれた。やっぱり違いが判らん。
「カズ」
耳の後ろに囁かれて、ぶわっと体温が上がる。
「は、はひっ」
「いいことあった?」
「え? いいこと……ですか」
途端に超高速で昨日の夜のこととかさっきのキスのこととかぐわーっと思い出して、茹蛸みたいになってしまう。自分でも熱いって判るくらいだから、きっと顔とか真っ赤だよね。うわーっ……!
「はい……」
小さな小さな声で答えると、むぎゅって抱き締められた。
背中から丸ごと腕の中に取り込まれて、両手でキューを握り締めたまま心臓が跳ね上がる。
「あー、またセクハラしてる~」
遠くから投げ遣りな金髪王子の声がする。
「ああ……可愛いカズが一歩大人になっちまった……」
ぎゅうってされたまま、顎とか頬とかでぐりぐりされて息が止まりそう。
ふえぇっ? 一歩大人になったの、俺。なんで? 智洋にキス……は前からされてるから、えーと……気持ちが通じ合ったかもしれないからとか?
え? なんでそんなのわかんの。先輩、読心術でも使えるとかー!
「あ、あのっ、そんなのどうやって判るんですか」
思い切って口にしたら、
「見りゃあ判る! 顔つき違うし」
はあ、と溜め息をつかれてしまいました……。
うう、ねえちゃんにも「顔に書いてある」ってすぐ言われるし、そんなに判り易いんかな俺……恥ずかしい。
しばらく離そうとしない先輩に釣られたように、いつの間にやらウォルター先輩と周も傍に来てしまっていた。
「ねえねえ、今日はカズくん囲んで少し質疑応答しようよ」
にっこり微笑んで首を傾けたウォルター先輩。凄く楽しそうですね。てか、既にキューしまってんし!
「賛成っす。大人の階段上ったカズを囲む会ってことで」
苦笑からにんまりに変わってる周の笑顔……怖いよう。
「おし、談話室占拠するか!」
大きく頷いた浩司先輩に抱きかかえられたまま畳のある奥の部屋に移動して、仕切りになっている襖も閉められてしまった。
そ、そこまでしなくても~!
何故だか胡坐をかいた浩司先輩の足の上に座らされる俺。そんなことされなくても逃げねえのに……。まあ至近距離に先輩の顔があって嬉しいんだけどね。何しろ声も至近距離なもんで、心臓ばくばくなんですよ。
浩司先輩は「さあて」と呟いて、そっと俺の髪を梳き始めた。
んん……やっぱ気持ちいい~……。
とろんとしているところに目を覗き込まれて、
「んじゃ、どんないいことがあったのか話してもらおうかな。言ってみ? 他言はしねえから。ついでに訊きたいことあったら言ってみろよ、一応人生経験ちっとは長いからな」
すぐ傍にウォルター先輩と周も座っている筈なのに、家具にでもなったように静かに息を潜めている。それでか、なんか二人きりでお話してる気分になってきて、俺は恥ずかしいながらもぼそぼそと報告し始めた。
「あのー……実は前から気になっていたことが解決したというかですね、ぶっちゃけ、俺のこと恋愛感情で好きなのかな、やっぱり違うのかなって色々悩んでたんだけど……実はちゃんと恋愛感情だったってはっきりして。で、俺の方ははっきり答えられなかったんです……。
でも、その人とキスしたりとか、えと、抱き締められたりとかは凄く嬉しくて……それってどうなんだろうって。友達にもそういう風に思うのかどうか、わかんなくて。でもそれでもいいって言われたりして」
どもりどもり、カッカと火照る顔のまま、それでもなんとか簡単に説明したつもり。
あ、今チッて舌打ちが聞こえたんだけど……方向からして周だなと思ったら、「栗原か……」って低い声で唸るように言って。
なんでバレてる!?
俯いて自分の膝をそれぞれの手でぎゅっと掴んでいるけど、腕が震えてるよ。大丈夫かな、周。




