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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
79/169

79 勘違いの擬似恋愛なのかも


 そこで甘えたモードが霧散してしまったのか、しばらくは俺と伴美さんの浩司先輩談義に花が咲き、更にセイジも加わりまたひとしきり釣竿で遊んだりしたので、二人きりのあのちょっとくすぐったくて恥ずかしくなるような空気にはならなかった。

 夕方にはおいとまして、家族との夕食の時間を楽しむ。

 明日は連休最終日。午前中にはまた智洋と合流して寮に戻ることになる。


 電気を消して布団に潜り込み、この休日での智洋との時間を考えた。

 夜に寮を抜け出して浩司先輩に色々諭された日。帰ってからもベッドで考えたっけ。その時も答えは出なかった。戸惑うばかりで、涙が出てきて……考えることを放棄してしまった。

 何かはっきりとした言葉があれば、判断できると思ってた。先輩が「俺に抱かれてえの?」って言ったみたいに、智洋が何かを言ってくれたら……。

 周に「好きだ」ってはっきり言われて、その時にもその好きって感情は俺にはないってことならちゃんと自覚してた。これからどう変わるかは判らなくても。


 智洋が、昨日今日としたこと──首筋とか、舐めたり、手や唇にキスをしたり。それは、やっぱりルームメイトとか友人の枠を超えていると思う。

 そしてそれをこれっぽっちも嫌悪感もなく受け入れて、もっとはっきり言葉にして安心させて欲しいなんて思っている俺って、やっぱり……周が俺を見ているような目で、智洋のこと見てるんじゃないかなって。


 あー……っ! 駄目だ~! 結局はここで終わっちゃうんだよな。だって初恋だってまだなんだもん。恋愛感情と友情の違いがわかんねえよ!

 今までと環境が変わって、そんな時に俺の理想みたいな凛々しくて優しい智洋と出会って、しかもプライベートな時間の大半を一緒に過ごしてる。だから何か勘違いしちゃってんじゃないかなって思うんだ。もしかしたら智洋も。

 智洋は、女子にちょっとうんざり気味で。そんで、お年頃なわけだから色々と興味は尽きないわけで。うん、それは俺も解るんだよ! だから興味半分というか練習みたいなので、身近な俺に色々しちゃうとか。例えて言うなら、擬似恋愛というかシミュレーションみたいな。

 それが、たまたま俺だっただけ。

 もしもルームメイトが他のやつだったら、クラスも違うし、俺と智洋は他に接点がない。だから、仲良くなりようもなかった筈。それがたまたま俺だった、そう考えた方が有り得る気がするんだ。


 あー、良かった……。突っ走って妙なこととか口走ったりしなくて。

 いや、今日もなんか変なことは言っちゃったけど、あれくらいなら友達として許容範囲だよな?

 俺のことどういう意味で好きかとか、うっかり訊きたくなっちゃったもんな……。


 なんだかちょっともやっとしたけど、自分の考えが満更でもないような気がして、ようやく眠りに落ちたんだった。



 連休最終日、俺と智洋は午前中に家を出て、また電車とバスを乗り継いで寮へと向かった。その途中で、ちょっと質の良いビデオテープも購入して、後で執行部の部室に行くつもり満々でいると智洋に呆れられてしまった。

 でも伴美さんと辰にも演舞のビデオ見せたいんだもん!

 絶対喜ぶと思うんだ~。


 そういえば、もしかしてまだ先輩たちは帰って来てないって可能性もあるのか……。

 食堂で遅い昼ご飯を済ませた後、部屋で荷物の整理をしながら気付いた。

 休みの間、夜はフルにバイトしてるってウォルター先輩が言ってたし、だったら帰ってくるのって遅い時間かも。

 まあでもいなくて元々だしな。取り敢えず先輩たちの部屋に行ってみるか。

 智洋に声を掛けると、暇だから付いて来ると言う。ご飯食べさせてもらったりして少しは打ち解けたし、一緒に行ってもおかしくはないかと判断して二人で階段を上って先輩たちの部屋をノックしてみた。

 応答なし。二人ともまだ戻ってないんだな~。


「なあ、ダビングって別にウォルター先輩じゃなくてもいいんじゃね?」

 ふと漏れた智洋の言葉に、俺もそうかと気が付いた。

「マスターテープが執行部にあるわけだから、別に携や会長に頼んでみてもいいんだ」

 問題は、させてくれるかっていう一点に尽きる。

 けどまあ、大丈夫だろうとは思うんだけどさ。


 今日はもう特にやることもなくて、暇を持て余した俺たちはそのまま下に戻って携の部屋に行ってみた。やっぱり応答がない。

 うーん……これはもしかしなくても、執行部は学校の方で仕事してるんじゃないかな。まあウォルター先輩は違うと思うけど。

 意見が合ったので、寮を出て校舎に入った。暇だからいいんだ~。

 それにもしかしたらダビングのお礼にちょっとした手伝いくらいなら出来るかもしれないし!


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