72 え!? そんなトコ……!
俺のトコもだけど栗原家もほどほどに放任主義で、連絡さえすれば帰宅が夜中でも問題はないらしい。
とはいえ、さっきチラッと聞こえたように先輩たちはバイトみたいだし、そんなに遅くまでは居られなさそうだ。早く浩司先輩こねえかなあ。
コンポから流れてくるボサノバを聞きながら、三人でくだらないことを話しては笑い合っていた。智洋も少しは打ち解けたみたいで安心する。
考えてみたら、今日俺ばっかり誰かと喋ってたもんな……。それとも、元々女の人とはあんまり喋らないんかな? 学校では普通に喋ってて、別に無口キャラじゃねえもんなあ。
夕日も落ちた頃、チャイムが鳴った。先輩は手が離せないらしく円華さんが応対に出て行く。
浩司先輩かなあ?
わくわくしながらダイニングとの仕切りのドアを見ていると、忙しない足音と共にオレンジの色彩が飛び込んできた。
「おひさー! ウォルター! お邪魔しまっす」
こっちに足を入れるなり笑顔満開で「はじめましてー!」とぴょこりと首を傾ける。オレンジは綺麗にマニキュアされている髪の色だと判明。太腿がようやく隠れるくらいのミニスカートと、それより少し上に裾が垂れているラグランのニットを着ている。
これまた円華さんとも真逆のタイプで驚いたのなんのって。
「ええと、名前訊いてもいいかな?」
通路側に座っている智洋の隣にポスンと腰を落とすと、大きな二重の瞳で上目遣いに見上げてくる。一応交互には見ているけど、さり気なく智洋の腿の上に手を置いたりしてる辺り明らかに智洋狙いじゃねえ?
「智洋だけど……」
勢いに押されている智洋。
「私、翔子。飛翔の翔に子供の子ね。トモヒロってどういう字? 書いて書いて~」
「え? 書く?」
「うんそうここに」
翔子さんは智洋の手を取ると、自分の手の平を上に向けて示した。
はー、なるほどね~。そういう教え方もあるんだ……。
おずおずとそこに自分の名前を書いているらしき動きが見えて、「なるほどねー」と翔子さんが頷いてそのまま腕を自分の胸に抱きこんだ!
ちょっ! あの胸っ。何カップだよー!?
服がゆったりしてても明らかに平均よりデカイでしょっていう膨らみがありましてですねっ。
ちょっと顔赤くなってるよ智洋~……すげえ積極的だこの人。
羨ましいと思う反面、なんかもやっとするものがある。
なんだろう……智洋ばっかモテるから嫉妬してんのかな、俺。かっこ悪い……。
「ねえねえ、そっちの彼は?」
膝の上に乗り上げそうな勢いでこっちに首を伸ばしてくる翔子さん。智洋との密着具合、半端じゃないです。
「和明です。平和の和に明るい」
俺の漢字は口で説明できるくらいに簡単だ。誰でもこれで解ってくれる。
「そうなんだー、ねえ、私は二年だし、普通にタメ口でいいよ? 仲良くしよ?」
ぐっと体を傾けると、Vネックの下、胸の谷間が見えて……。
どわーっ! 姉ちゃんはスレンダーだし(そんなこと言ったら殴られるけど)耐性がないから、完全に耳まで真っ赤になってんのが判る、自分。
「あはは、かーわいいー」
わざとか! わざとなんですね、翔子さん!?
「翔子―、あんた見境ないね」
いつの間にかまた対面に座っている円華さんが、ふっと呆れたように鼻で息をついた。
「うう、だってだってずーっとえっちしてないし~、こうやってイチャつくくらいいいじゃんかー。円華さんはいいなあ~相手がいてー」
口に出してブーブーと言いながら、するりと智洋の首に両腕巻きつけちゃって。ていうか!
「えっちって」
はあ、と円華さんが指で額を押さえる。
俺もこんなはっきりすんなり女の人が言うの初めて聞いたんですが。
「ねえねえ、智洋くん~君なら抱かれたいなあ。どう? 好みじゃない、私」
「はあ?」
流石の智洋も二の句がつけずに固まっている。
どどどどうすんの? こんなの全然予想だにしてなくて、対応策浮かばねえんだけどっ!
勿論言われてんの智洋だしっ、そんなの俺には関係ないっちゃないんだけど……。
あわあわと見つめていると、そっと智洋が近くにある翔子さんの顔を遮るように手の平で押し留めた。
「無理」
一瞬ぽかんとした翔子さんだったけど、その次の行動は速かった。
だって、だって、こんなの普通予測できねえだろ!?
「──っ!」
びくんと智洋が背筋を震わせる。
だってさ……いきなりジーンズの上から股間擦られたんだもん。




