68 盛ってるの?
「あ、そうだ、ねえちゃんは?」
肝心の用事を思い出して訊くと、
「本屋に行ってるらしい。その内帰ってくるよ、多分」
「そっかあ。じゃあ待ってる間、セイジと遊んでてもいいかなあ」
……返答がない。
半眼で睨まれている気がします。なんか怒らすようなこと、しちゃった……?
「俺は?」
ああなるほど。今日は智洋と遊ぶ約束していたわけで。一人で放っといちゃ駄目だよな。俺は物珍しいからずっと遊んでても退屈しないけど、普段見慣れてるんだからわざわざ一緒には遊ばねえよな。
あからさまに「構って」オーラ放っている智洋っていうシチュエーションが珍しかった上、寮にいるときと髪形も違って少し幼く見えて、口元が綻んでしまう。
セイジに触れているのと反対の手で顎に触れると、のしっと俺の肩の方に体重を掛けてきた。
ふ、とくすぐったさと共に首筋に温もりを感じて、湿ったものが肩口からうなじをなぞるように上がっていく。
「ぅん……」
漏れてしまった声に連動するかのように耳朶を甘噛みされて、腰の辺りがずくんと疼いた。
「な、に……?」
そのまま耳の後ろを辿ると更に疼きが増して、びくんと跳ねた体に驚いたのかセイジが前足を下ろして座り直した。
舌であちこち舐められているんだろうな、とは思った。
汗掻いてるからしょっぱいだろうにっていう恥ずかしさもあって、いたたまれなくて体を離そうとすると、途端に腕が腰に回されて逆に引き寄せられてしまう。
唇が、舌が、容赦なく俺の肩から上を舐め上げては軽く噛み、形を記憶するかのように辿って行く。体の奥から湧き上がるどうしようもない熱をせめて口から逃がそうと息をつけば、自分でも聞いた事のない甘い声が漏れた。
あ、やば……このパターン。なんかもう、やっぱり反応しちゃってるんだけど!
てか、おねーさんいつ帰ってくんの!?
リビングなんかでこんなことしてていいんでしょうか!
「ちょっ、ストップ……智洋、まずいって」
このまま流されたがっている体を説得して手を上げると、智洋の顔をぺちぺちと叩いてアピールした。
「ああ、そっか」
理解してくれたみたいで安心したよー……けどまだ腕が離れてないけどさ。
それにしても智洋さん。盛ってんの?
どきどきするし、なんか嬉しく感じているのは確かなんだけど……。でもまだ俺、自分がどういう風に好きなのか判ってねえし。
智洋も、一体どういうつもりでこんなことしてくんの……?
問いかけるように、至近距離で振り仰いで見ると、薄い唇が降って来て優しく口付けられた。
何度も何度も、離れてはくっついてを繰り返すその仕草に安心する。
言葉にしなくても、好きだよって沢山囁かれているみたいに。
だけどさ──やっぱり一度でいいからちゃんと耳で聞いて、確信したいよ……。
そんなこと考えてる時点でもう俺の気持ちって、友達以上なのかな……?
日が落ちる前に帰宅した伴美さんのテンションは高かった。うちの姉貴とは全然違うタイプだということが良く判ったよ~。寮に来た時のが余所行きの顔ってわけじゃなくて、どうも家でもずっとあんな感じらしい。素晴らしいバイタリティー。
「たっだいまー、セイジ!」
リビングに入るなりお迎えモードのセイジを抱き上げてむぎゅー!
「お邪魔してます」「きゃあカズくんだー! いらっしゃーいっ」
にこおっと満開の笑顔でセイジを下ろして両手をヒラヒラと振り、「私もなんか飲むー」とキッチンに行ったかと思うとグラスを手にして戻ってきた。
「なんかもお夏みたいに暑いねー外。カズくんって、おうち近いの?」
途中まで智洋が座っていた対面に腰掛けると、くーっと半分ほど中身を飲んでから首を傾げた。
「あ、はい。襟川町なんで」
「えー! いいなあ、浩司くんちの近くー?」
目を見開いて羨ましそうに見つめられて、当初の目的を思い出した。
「あの、浩司先輩の家って判ります?」
勢い込んで身を乗り出す。何故かセイジは俺の隣にまた寝転んでいる。ちらりとそれを見てから、伴美さんは残念そうに吐息した。
「大体あの辺りかなあっていうのは判るけど、実際に場所が判ってるのはウォルターの家だけだよ」
「じゃあ、ウォルター先輩の家、教えてもらっていいですか?」
本校にいるときから仲が良かったみたいだし、バイクで一緒に帰るくらいだからきっと家の場所も近いんだろう。何より、ウォルター先輩なら休み中も浩司先輩と連絡が取れる筈だし、行ってみて損はないと思うんだ。
「うん、いいよ。この後ちょっと友達と約束あるから、ついでに一緒に出よう? 自転車で行けるとこだし」
気安く請け負ってくれた伴美さんに感謝して、じっと目で追いかけてくるセイジに後ろ髪を引かれながらも、三人一緒に家を出たんだった。
は~……マジ可愛すぎる! 休み中毎日触らせてもらいに行こうかな。後で智洋に訊いてみようっと。




