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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
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67 まふまふタイム

 シャムと何かのハーフなのか、日本猫と同じくらいの長さの毛並みはグレーっぽい白で、顔と尻尾と足先にブルーのポイントが入っている。瞳の色もブルーで、めっちゃ綺麗!

 感動に打ち震えている俺の隣で「また脱走かまそうとしたのか」と智洋がデコピンしていた。

 そうか、玄関から表に出ようとしてたのか、車も通るし危ないよな。

 俺は智洋の背中にくっつくようにして中に入ると後ろ手にドアを閉めてから、わくわくとその猫を見つめた。

「触ってもいいかな?」

 今すぐ抱き締めたいのを我慢して、驚かさないように顔の下からそっと手の平を見せる。猫はじっと俺を見て、見覚えないなあと思案している風だ。

「ああ、多分大丈夫だけど……」

 抱き猫じゃないのか身じろぎをする猫を上がり框に下ろすと、智洋は靴を脱いで上がった。

「お邪魔しまーす」

 声を掛けたものの、下からじっと俺を見上げてくる猫に魅了されて、脱いだ後に床に座りこんでからそうっと背中に手を伸ばした。

 ぴゃん、と背中が弓なりに反り尻尾が真っ直ぐ天を向く。今度は顎の下に指をやりこちょこちょくすぐるように掻いてやると、目を細めてぐるぐると喉を鳴らし始めた。

 うおっ! めっちゃ可愛い!

 連れて帰りてえー!

 そのまま頬を掻いたり、また背中を撫でたりしているとコロンと腹を見せてくれたので、そこに顔を埋めたい欲求と懸命に戦いながら、うっとりと柔らかな毛並みを撫で続ける。

 ああ~気持ちいいよう……。

 まさか智洋が猫飼ってるなんて。羨ましい。

 毎日来て撫でさせてもらいてえ……。

 ついに床にへばりつくようにして猫と鼻チューしていると、上から呆れ果てたような声が降ってきた。

「和明……せめてそれリビングでやってくれ」

 片手を腰に当てた智洋が、親指で背後を指し示した。


 名残惜しかったけど、立ち上がって俺が歩き始めると猫もついて来た。

 懐いてくれたのか! 笑顔全開でソファーに腰を下ろすと、当然のように横に飛び乗り前足を二本とも俺の腿の上に載せてくれる猫。

 溜まんねえっす……。そんな期待に満ちたきらきらの瞳で見つめないでくれよう。

 もうちょっと仲良くなったら、絶対その腹に! 腹に顔を埋めてやるんだからなっ!

 相当だらしない顔をしているに違いない俺の前、テーブルの上には時間が経って氷が溶け掛かっているグラスが置いてあった。対面に腰掛けている智洋のは半分以上減っていて、あれれ俺ってそんなに長いこと猫と戯れてたっけ? と慌てて「いただきます」とグラスを手に取った。

 あー、百パーセントのアップルジュース旨い……果糖がじんわり体に沁みていく感じ。

「和明、そんなに猫好きだったんだ?」

 じいっと真正面から顔を見つめられて、照れながら頭を掻く。

「う、うん。飼いたいんだけど、俺外に出てること多いし、自分で世話しきれないなら駄目って親にも言われてて」

 ましてや今は寮暮らし。絶対無理だよなあ。

「あ、そうだ名前は?」

 今更のように尋ねると、智洋は何故か嫌そうに口元を歪めてから渋々という感じに呟いた。

「──セイジ」

「せいじ?」

 猫にしては珍しい名前だなあ。雄だってのは判ってたけど。

 多分そんなのが顔に出てるんだろう、智洋はひらひらと顔の前で指を振った。

「一応言っとくけど、それ姉貴の猫な。名前は、姉貴の初恋相手、隣の兄ちゃんから付けてる。恥ずかしくって外で名前呼べねえよ」

 リビングの掃き出し窓を指し示したから、庭の向こうの隣の家に件のお兄さんがいるんだろう。

 そりゃ確かに呼べねえわな……。

 でも猫に罪はないわけで。

「セイジ」

 目線をやって呼び掛けると、耳がパッと俺の方を向いて首を伸ばした。またこちょこちょと頬を掻いてやるとうっとり目を瞑ってしまう。

 あー可愛い! ハンサムだしな!

 そのセイジさんがどんな人かは知らないけど、目のつり具合とかシュッと通った鼻筋とか、智洋を彷彿とさせるよなー。


「和明……」

 ん? あれ、いつの間にか智洋が隣に来てる。

 指を動かしながら顔を向けると、目の前に顔があってじっと見つめられていた。


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