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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
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66 「ふたりでいたい」

 もう一回ベンチに戻ってから、俺は母親に言われたことを伝えて、買い物に付き合って欲しいと頼んだ。それは快諾してくれたんだけど、じゃあ何を買えば喜んでもらえるのかというと、二人してすぐに暗礁に乗り上げてしまう。

 最高額の紙幣を持たされた俺は、下手なものを購入して失敗するのは許されない。かといって好みのものと言われても、服とか装飾品は俺のスキルが低すぎて選べない。靴は確かリーボックだったなと思ったけど、メーカーのラインナップだってまちまちで、全部が好きとは限らない。靴のサイズが二十七っていうのは知ってるけどな!


 うんうん唸っていても仕方ないので、それならいっそのこと現金を渡した方がいいような気もしてきた。親には叱られそうだけど、正直先輩だってその方が嬉しいに違いない。調べによると、内容はわかんねえけどバイト掛け持ちしているみたいだし。

 ん? 寮にいる間って出来ねえよな? 大丈夫なのかなあ。

 もしかしてこの連休に帰省したのも、バイト三昧するつもりだったりして。だったら日中家にはいないかも……。

 というか、そもそも家を知らないから誰かに聞いて調べなきゃいけない。

 しばらく考えて、そういえばみっくんの家なら判るんだから、もしかしたら妹が知ってたり? ちなみにうちの姉貴は知らないらしい。ちらっと聞いたところによると、昔から女子とは滅多に話さない人だったらしく、少なくとも知り合いは誰も家になんて行ったことはないだろうとか。唯一の可能性が、幼馴染みの本城進という人の彼女らしいけど、それにしたって回りくどすぎる……。

 みっくんなら知っているんだろうけど、寮長に休日はないというか、基本的に正月以外帰省しないとか。大変なんだなあ。

「なんかゴメンな、こんなのに付き合わせて。ずっと唸ってても仕方ねえからどっか遊びにいこ? 智洋は何処行きたいの?」

 うーんと伸びをしてから隣の智洋に顔を向けると、ちょっと考える風な仕草をしている。

「帰ってくるまでは色々考えてたけど、こんなに混んでるとうんざりするよなあ。何するにしても待ち時間長ぇし。遊び歩くのは夏休みでいいとして、その前に軸谷先輩の家探しすんのもそれはそれで楽しいと思うぜ。鬱陶しい女共に絡まれずに、和明と二人でのんびりしてた方がいい」

 一番最後の下りに、ちょっとどきりとした。

 うん、まあ変な意味はないんだろうけど……。

 つうか、俺が変だろ! 周に言われた時と同じように受け取ったら駄目だって。そんなの、智洋に失礼だろ。

 ぎゅっと、ベンチの端を握り締めて自分を戒める。それなのに。

「和明と、二人でいたい」

 正面から見つめられて、かあっと頬が熱くなった。


 吐く息が、熱い。

 なんか胸が苦しくなって、パーカーの胸元をぎゅっと握り締めた。

 優美なラインを描いてつりあがった眼差しが、凛と俺の瞳を見つめていて逸らせない。

「とも、ひろ……」

 喉が詰まったみたいに、声がちゃんと出なくて。ここが寮だったら、顔が近付いてってパターン……だけどここは天下の往来だ。しかも人通りの多い商店街近くで真昼間。どうにもならずにそっと視線を下げると、「あ」と智洋が呟いた。

「もしかして、うちの姉貴が知ってたり?」

 唇に指を当ててちょっと頼りなさそうだったけど、もしかしたらそれが一番の近道な気がして、栗原邸に向かうことにした。



 電車かと思ったら智洋も自転車で来ていたらしく、二人でそれぞれに乗っての移動になった。スポーツタイプの学チャリなだけに、本気で漕いだらトロトロ走っている車より速い。まあそこまで急ぐ必要もないので、ギアを軽くしてのんびり向かった。

 川沿いの桜並木、田んぼの中の畦道。少し暑い位のこの季節なら、自転車でゆったり走るのには丁度良くて、爽やかな風を感じながら、また住宅地へと入って行く。

 アイボリーの壁に色々な茶色の洋瓦を載せた西洋風の一戸建てが栗原邸だった。姉ちゃんが幼稚園くらいの頃に建てたらしい。うちもそうだけど、この辺りの人は大体子供が小さいうちに家を建てて核家族で生活するんだよな~。所々昔ながらの古い建物も残っているから、新興住宅地として作られているわけじゃなくて、管理維持できなくなった土地建物や田畑を切り売りしている場合が多く、広い庭付きの家を壊して土地を分割したりもよくある話だった。

「ただいまー」

 庭先に自転車を停めて智洋がドアを引いた途端、何だかもふもふなものが足元に飛び出してきた。すかさず智洋が器用に足で押さえ込み、しゃがんでそのもふもふを抱き上げる。

「猫っ」

 嬉しくて声を上げてしまった。


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