64 うきうきしたりざわざわしたり
うーん……?
ここから先がさっぱり思い付かない。
まあいいかとゴロゴロしていると、姉貴がやってきてテーブルの上の雑誌に手を伸ばした。
「あ、ここに置きっぱなしにしてた」
ぱらぱら捲りながら、ちらりと俺を見下ろしてくる。
「あんたのも何か頼んどく?」
「なにそれ? カタログ?」
そう、と頷いて、背表紙五ミリくらいのフルカラーの冊子を手渡してくる。【feel】ふうん……姉貴の好きな、自然素材の優しい感じの服ばかりだった。男のもあんの?
はた、と手が止まる。
「え!? なんで?」
ページと目を見開いて紙面を凝視する俺の顔に当たるくらいの勢いで、姉貴が隣から覗き込んできた。
「ああ、そのモデル、軸谷くんみたいだねえ」
夏物のカタログなのか、波打ち際で素肌に白いシャツを羽織りハーフパンツ姿の先輩が、ゆったりと微笑みながら遠くを眺めていた。隣のページには、南国風の室内でカウチに寝転んでいる先輩。捲ると、女性のモデルさんと寄り添っていたりと色んなポーズの先輩。みたいな、じゃなくて間違いなく本物!
「ね、ね-ちゃん、一生のお願い!」「いやよ」
即行で否定されたけどまだ願い事言ってねえよ!
「あんたの一生のお願い、何回聞いてやったと思ってんの。い・や・よ」
白々とした目つきで腰掛けて自分の膝に頬杖をついている。
「だってさ……これ」
「軸谷くんがどうかしたの?」
はあ、まあ小等部から一緒なんだし、姉貴が知っているのは当たり前なんだろうけどさ。
「あの、入院事件の時に助けてくれた人、浩司先輩だった」
今の今まで家族に連絡していなかったことを思い出して告げてみると、流石の姉貴も目を丸くして驚いていた。
「へえ~! ああでもなるほどねえ……軸谷くんなら納得かあ」
そして改めて俺の顔をじっと見て、何故かうんうんと頷いている。
この顔かーこんな雰囲気だよねー、なんて、したり顔で頷かれてもさっぱりですお姉さま。
「で、軸谷くんと仲良くなれたんでしょ」
「うん、そうだけど……?」
首を傾げても、でしょうねえなんて嘆息して。
「まあそういうことなら、発注して済んだらそのカタログあげるわ。お願いってそれでしょ? 欲しいんだよね?」
「えっ、なんで解るんだよ」
「顔に書いてあるし」
ええー!?
自分でぺたぺた触ってみても当然判る筈もなく。
カタログを俺の手の中に置いたまま、キッチンにいる母親の方に報告に向かったみたいで、食事の後「何かお礼を買ってきちんと挨拶してきなさい」なんて紙幣を渡された。
そっかー。考えが及ばなかったけど、折角智洋と駅前で約束してるんだし、何か適当に菓子折りでも買ってご実家に行ってみよう。
先輩、甘いもの好きかなあ?
恥ずかしいような嬉しいような、変な気分。
着替えて、待ち合わせの場所へと自転車で向かった。なるべく住宅地を抜けていったけど、大通りは人でごった返している。
駅前に大きな噴水があるんだけど、そこにしなくて正解だった。商店街の中に【Milk Bottle】という大きな書店があるのでそこを指定したんだ。その名の通り大きな牛乳瓶の形の外観で、白くて円筒状の外壁にキャップ型の赤い屋根。中には座って本を読むことが出来るカフェスペースもある。学校帰りにちょっと漫画を物色したりと、お世話になった場所だった。カフェなんてお洒落な利用は出来なくて、自販機のジュース片手にベンチでダベったりって程度だったけどさ。
商店街用の駐輪スペースに停めてから、店へと向かう。
んん? 結構混んでるかも?
と思って良く見たら、なんだ智洋が逆ナンされてるだけだったよ、三人組の女子高生に。
またか~と思いながら、そっと三人を観察する。イマドキの女の子、な感じでふわふわっとしたイメージ。そういや智洋の好みって聞いたことないような。どんな女の子が好きなのかなあ? お姉さんっぽいの? でも実のお姉さんがいる場合、結構年下が良かったりするんだよなあ。どっちなんだろ。
智洋は、朝もセットしてなかったけどそのままのさらさらヘアーにサンバイザーを着けて、ブルージーンズとブランド物のポロシャツだ。爽やかスポーツ系に見える。
そのポロシャツの裾を掴んで一番ちっこい女の子が何か訴えている。なんかドキドキしてきた……てか俺はどうしたらいいんだろ。デート、したいなら行ってくれてもいいんだけど……。
でも、先に約束したの、俺だし。
胸の中が、ざわざわする。智洋も、困ったような顔に見える。
腕時計を見ると、約束の時刻五分前で、意を決して俺は足を踏み出した。




