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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
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62 暑いんだか寒いんだか


 月曜日の晩に帰省する人も多かったみたいで、少し嫌そうな浩司先輩の後ろに乗ってウォルター先輩も帰って行った。携が忙しいのに書記はいいんだろうか……? 執行部のこと解んないけどさ。

 俺と智洋は朝の便のバスに一緒に乗って、電車で帰省した。降りる駅は違うけど家同士は十キロも離れていないので、荷物を置いてから改めて午後に待ち合わせの約束をしてから別れる。

 大分暑くなってきたし、半袖もう少し寮に持って帰らなくちゃだよなあ。

 ぽてぽてとボストンバッグを肩から提げて歩いていると、チリリンッと自転車のベルを鳴らされた。

 なんだよー。ちゃんと端っこ寄ってるぞ? つうか、チャリは左側通行だろうが。後ろから鳴らすな。

「かずくんおかえり~」

 恨めしげに振り返ると、姉の裕子がサドルから降りたところだった。

「ただいま」

 ママチャリの前籠にはスーパーのレジ袋が中身が飛び出しそうな程にみっしりと詰め込まれている。ボストンを外して後ろにドサッと載せると、姉貴は黙って自転車を押しながら歩き始めた。

 ほっそりした体に色白の肌。背中の中ほどまで伸ばしている髪は細くしなやかなストレートで少し色素が薄い。目の色も少し薄いんだよな。おっとりという言葉がぴったりはまる優しそうな顔立ちの美人。

 あくまで外見は。

「まさか迎えに来てくれた」「わけないじゃない、買い物からの帰りよ見りゃ判るでしょ」

 ソウデスネ。

 それでも後ろに荷物を置かせてくれただけまだマシだろうと思う。

 多分ここが往来だからだ。ご近所の目があるから文句言わないんだ。

 家までの数百メートル、何を話そうかと逡巡する。別に無言でもいいんだけど、今だから訊けること……訊いてみようかな。


「あのさあ」

 恐る恐る、少し前を歩く姉貴に話し掛けてみる。

「みっくんと、どうして別れたの?」

 ──そのまま歩き続ける姉貴。聞こえなかったのかな?

「ねーちゃん? あのさ」

「いきなりなんでそんな話題になるのかなあ? かずくん?」

 ふふふ、と笑いながらの静かな声。見えないけどきっと笑顔だろう。完璧な作り笑顔だけどな!

 どう話したものかと考えていると、向こうから振ってくれた。

「ああまあどうせあんたのことだから、あっちでみっくんに会って懐かしくなったとか言うんでしょうけど。それにしてもあの女好きがよくも男子校に行ったわねえ?」

 痛い痛い痛い!

 氷の槍がぶすぶすと心臓の辺り抉ってくるイメージなんですけど!

 ふわふわのギャザースカートの足元は揺るぎ無く、一定のスピードで家に向かっている。

「みっくん、女好き……かなあ?」

 寧ろ男子に好かれるタイプだと思ってたけど。まあ年下から、しかも小学生の頃のイメージなんてあてになんねえか。

「というより八方美人よね、単なる」

 さくっと言われて、まあそうかと納得してしまった。ごめんな、みっくん。

 あの晩、「悪い意味で榎本と同じだ」って浩司先輩に言われた。

 理由は、姉貴なら判っているはずだと。

 なるほど、今姉貴が言っていることは俺にもあてはまるって、そういうことなんだろうなって思うと凄くショックというか……。

「……それが、原因?」

 俯いて、足元を見ながらついて行く。首の後ろに当たっている日差しがじりじりと痛い。

「そもそも、あの人私に対して恋愛感情あったのか解らないしね。あの人の笑顔、誰に対しても同じじゃない? そういうのって……こっちは特別だと思って傍にいるのに、耐えられないわよ」

 キュ、と唇を噛み締めると拳に力が入った。

 違うよ、それだけは誤解だ。

 みっくんにとって姉貴のことが特別だったのは、俺の方が知ってる。

 姉貴には言えなかったし、これからも言うつもりはないけど……。


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