54 そんなに好きなの? 俺のこと
「え、と……それってどういう」
「まあ、今夜は二人きりで話したかったってのがホント」
「は? あの、えと、」
二人きりでって、俺なんかやらかしたっけ!?
心臓どきどきしっぱなしで目が回りそう。
はわわ……。
「寮とかガッコとか、壁に耳ありってやつだからなー。ここなら流石に誰もこねえだろ?」
尋ねるように僅かに首を傾げる仕草が男の色気に溢れていてですね。
周もこんな仕草するけど、圧倒的にスキルのレベルが違う。
駄目だ、ホントに目が回りそうですーっ!
「あのさ、カズがここ受けたのって俺が目当てだってのはホントか?」
ひええっ、何処からその情報漏れましたか! そりゃあ隠しちゃいないけど吹聴してもないよ? 多分携と智洋くらいしか自分の口からは言ってないってのにー!
なんで選りにも選って本人に問い質されるはめに……。
怒ってはいないようだけど、ちょっと泣きたくなってきた。
「はい……本当です。ごめんなさい……」
「そっか」
しゅんと俯くと、手の平が頭を優しく叩いて。
「責めてるわけじゃねえよ。なんで俺なんか追っかけてんだよって思っただけ」
苦笑交じりに言われて、それは聞き捨てならなくてがばっと顔を上げた。
「なんかじゃないです! 浩司先輩はめっちゃかっこよくて! 優しくて男らしくて! 俺の憧れなんです! ほんの少しでもいいからちゃんと顔を見てお礼を言いたかった。それからこうやって話とか出来たりして、今、俺、凄く幸せでっ」
必死に力説すると、目の端に涙が滲んできた。
あれ? こんなの、本人に言うようなことじゃねえよな……。
でも俺、例え本人にだって、浩司先輩を貶めるようなこと言って欲しくない。
「はは、んなの初めて言われた。すげえ」
吸いかけの煙草を灰皿に放り込むと、それをポケットに収めてから先輩はそっと俺を抱き寄せてくれた。両腕で包み込むように、ふんわりと。
「そんなに好きなの? 俺のこと」
「はい、好きです」
先輩の腕の中はあったかい。
巣の中で親鳥の羽の下に守られている雛みたいに小さく震えながら、俺はそっと息をついた。
「じゃあさ、俺が本校に帰るって言ったら、カズもついてくる?」
「え?」
言っている意味が解らなかった。
確かにこっちの方が募集人数多かったから受かり易いと思ってこっち受けたけど、本当はあっちに行きたかった。実家からは十分に近いし、小学校からずっと通っている同級生も多い。ただ、俺がたまたま姉貴と同じとこが嫌で受験して、清優で携と出会って──。
携は、俺がいなくても間違いなくこっちに残る。
それは、俺には全く関係ないところで受験した智洋も同じこと。
そうしたら、もう二度と会えないかもしれない。
そう確信した時、俺は返答が出来なくなっていた。
「どうだ? 心の中に今、大切なやつ浮かんだか?」
腕が解かれて、体を離した浩司先輩が優しく微笑んでいた。
「カズってさ、俺の幼馴染と似てんの。本校の方にいるけどな、あいつに彼女が出来るまでは何するにも一緒でまるで兄弟みたいで。お前の天真爛漫なトコ、あいつに似てる。けどな、あいつは大事なものをたったひとつと決めたら、それはもう頑なに大事にするんだ。そういうとこ、凄えなって尊敬してるんだけど」
急に自分のことを語り始めた先輩に驚きながら、それはきっと俺に何かを教えるためなんだと思ってじっと耳を澄ませた。
「お前さ、悪い意味で榎本と似てるんだよな」
「みっくんと、ですか」
リーダータイプのみっくん、ぐいぐい皆を引っ張って先頭を走っていくみっくん。そんな『榎本満』しか知らない俺は、相当納得いかない表情をしてたんだろう、先輩は苦笑した。
「わかんねえか……。多分姉さんなら解ってるよ。だから別れたんだろう?」
って言われても……。
不思議そうに見上げていると、くすりと笑んで何気に凄いこと言われました。
「カズは、俺に抱かれてえの?」
──しばらくお待ちください──。
頭の中、真っ白です。




