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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
53/169

53 タンデム

 どきどきそわそわしながら部屋の中を歩き回っていると、智洋は呆れながらも放っといてくれた。事情は話してあるし、相手が浩司先輩だしで安心してるのもあるんだろうけど。

 ほどなくして、外から二輪車の排気音が聞こえてきた。これ、明らかに道路じゃなくて中庭走ってませんか!?

 驚いてカーテンを開けると窓の向こうに人影。いくらここが一階でも地面よりは随分高くなっていて良く見えないので、思い切って掃き出し窓を開けて柵から乗り出すようにしてみると、バイクの乗り手がスポッとフルフェイスのヘルメットを脱いだ。

「カズー、行くぜ。出て来いよ」

「浩司先輩!?」

 まさかこっちから来るとはー!

 ああ、それにしても革ジャン姿の浩司先輩めっちゃかっこいいです眼福です!

「あの、外出届とか点呼とかは、」

「榎本にはナシつけてあるからほっといていい」

 マジで!

「後ろ乗せてやるから早く」

「はいぃっ」

 返事の声も裏返りそうなほど慌てて顔を引っ込めると、俺はスタジアムジャンパーを掴んで智洋に手を振ってから部屋を飛び出した。バタバタとスニーカーに履き替えて中庭に出てみると、上階から体を乗り出したみっくんが叫んでいるところだった。

「じーくやー! 許可はしたけどな! バイクを中庭に乗り入れるなっつーの! せめて押して来い、うるせーんだよ!」

「わぁーったよ、あんまり興奮すっと落ちっぞー」

 見上げると、みっくんの後ろから副寮長の南さんが腰を引っ張って支えている様子。相変わらず無表情だなあの人。

 俺が近くに来たのに気付いたのか、ぽんと予備らしき綺麗なヘルメットを渡される。

「ほんじゃ行くか」

 メットを被りグローブを嵌めるのを見て、慌てて俺も渡されたヘルメットを被った。手で示されるままにリアシートに跨るとくぐもった声で「危ねえからしっかり腰にしがみついとけよ」と指示され、おどおどと腰に腕を回してみた。

「もっとぎゅっと」

 また指示されて本当にしがみつく感じでぴったり体をくっつけると、ようやく納得したのかバイクの音が変わりすっと体が前に流れた。

 暗いから良く見えなかったけど、よくサーキットとかで見かけるスポーツタイプの二百五十は、最初は低い音で、そしてスピードが乗ってくると甲高い乾いた音を上げながら暗い夜道を疾走していく。

 勿論運転なんてしたことがなくて、リアシートにすら初めて乗った俺はドキドキしながら途中からは無意識にその腰に抱きついてしまっていた。

 だってカーブとかで体も車体も倒れるし、めっちゃ怖い。

 先輩のことは信頼しているし、むしろ俺を乗せた先輩の方が乗りにくくて大変だろうにと申し訳なく思いながらも、やっぱり恐怖心には勝てない。

 それでも、数十分も経たずして山頂付近の待避スペースに到着した時には、恐怖よりも楽しい感覚の方が勝っていた。

 ふわー。流石峠主体の走り屋【KILLER】のメンバーなだけある。詳しくないから判んないけど、安定感があるというか、何かに巻き込まれない限り事故らないっていう根拠のない確信めいたものを感じてしまった。

 道路の端に丸太で作った柵がある場所でエンジンを切った先輩がメットを脱ぐのに合わせ、俺もシートから下りて柵に歩み寄る先輩に倣った。

「吸っていいか?」

 ポケットから出した煙草の箱を示されて頷くと、少し立ち位置をずらしてからオイルライターで火を点けた。紫煙が風に乗って流れていくのを眺め、風向きを考えて俺に煙が来ないようにしたんだと気付く。

 ぽう、と時折点滅する煙草の先とそれを持つ長い指先を見ていて、凄くさまになってるなと思った。

 男子たるもの誰でも一度は酒と煙草に挑戦したことがある筈で、俺も皆に倣ってこっそりどっちも試してみたものの、酒はともかく煙草は全然肺が受け付けなかった。

 口の中だけで煙を回して「フカす」吸い方もあるけど、少ない小遣いをその為に消費するなんて勿体なさ過ぎる。

 見ているだけでも、先輩の場合は肺まで吸い込んで中から出てきた煙をまた口の中で転がしてから吐き出しているんだなと判る。本当に好きで吸ってるんだなあ。

「あー、生き返る~っ」

 目を細めてしみじみ呟いてたりして、先輩が嬉しいなら俺も幸せだった。

 ゆっくり一本吸い終わるのを待って、それを携帯灰皿に押し付けるのを眺めながらようやく俺は口を開いた。

「あの、どうして誘ってくれたんですか? 嬉しいですけど……」

 なんだかんだで、応援団以外に関わりのない俺のことを構ってくれるのはとても嬉しいんだけど。でも、最初の日にあんな下手っぴなアピールした俺に、そんなに好感なんて抱かないだろうなと思った。だからついつい尋ねてしまう。

「他にも、ビリヤードに誘ってくれたりとか、どうして、」

 言いかけた俺の頬をライダーグローブを外した手が撫でていった。

「俺さ、基本的にリアには誰も乗せない主義なんだ」

 一瞬で離れた手の平から、顔へと視線をやる。浩司先輩は、新しい煙草に火を点けながらじっと俺の目を見詰めていた。


喫煙を推奨するものではありません。経験者ではありますが。

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