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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
52/169

52 夜の外出

 中腰になっていたところをしゃがみこんだ状態の人にされたから、そのまま後ろに倒れそうになるところを、別の誰かに支えられる。

「ずるいです。私も参加します」

 小橋の声がして、背後からも包むように抱き締められて、つまり俺はサンドイッチ状態で。

 なんとか無事な両手を体の隙間から出すと間野の背中を叩きながら救助要請を出した。

「し、しげくーん! 何とかしてー!」

 はあ、と溜息が零れた。

「残念無念ですが、僕の力ではその二人を引き剥がすことは出来ないのです。暫く我慢してやってください。その内エネルギー摂取出来たら剥がれるでしょうから」

「ですね、大丈夫です。カズくんは貴重な癒しですから壊れるような無体なことはしないはずです」

 しげくんとサトサトが悟りきった声で言って、会長は微笑みながら和やかに見守っている様子。


 だ、大丈夫とか言われても!

 なんか、向こうから死角になっている辺りで色んなトコ触られまくっていてですね……ええ。

 セクハラ? パワハラ? ちくしょーっ、会長にまで取り入って見逃してもらってるとは不埒なやつらめ!

 何処に訴えてやろうか!

 息を荒くしている俺の耳に、こっそり小橋が囁いた。

「いいえ、愛ですよ」


 数分後に確かに解放されたけど、なんかもう精神的に何かを失った気がしてならない。

 ほてほてと歩いて自分の座っていた椅子まで辿り着き、「会長ぉ~」と恨みを込めて見詰めると、まあまあと頭を撫でられた。

「気分転換には丁度いいだろう? あいつらのノリは」

「気分転換、ですか……?」

 首を傾げながらも、しげくんが淹れてくれた甘いカフェオレに口を付けると心が静まっていった。

 なんだろう、俺。いつも通りにしてるつもりだったけど、やっぱりあの変なやつらのことで態度が変わってたんだろうか。

「夕食の後、課題があるなら今日済ませておいた方がいいぞ」

 俺にだけ聞こえるように、さり気なく書類で口元を遮って会長が微笑んだ。

「え? どういうことですか」

「夜になったら判るよ」

 ふふ、と笑みを深くして、荷物をまとめると会長は執行部の方へと行ってしまった。

 頭の中は疑問符だらけだったけど、俺はしげくんと一緒に給湯室に向かい洗い物を手伝ってから、皆と一緒に寮へ帰った。

 智洋にも念を押されているし、こんなやつらでも一緒にいた方が安全だろうということで。

 かなり不承不承だけどな!



 寮に帰っていつも通り左に携、右に智洋、という位置取りで晩御飯を食べる。いつも真ん中辺のテーブルでグループになっている周が、ちらちら見てくるのに気が付いた。

 んー? 何か話あるのかな。

 でもそれに気付いた智洋が噛み付きそうな顔で睨み付け、周は諦めたのか最後にウインクして食事に集中したようだ。

 なんだったのか気になりつつも、食後は部屋で課題のプリントと予習をやった。いつもは日曜の午前中とかにやるから軽めに済ませるんだけど、会長に言われたからには何か理由があるんだろうと思って集中してやる。智洋に断って先に風呂に入ってもらった。たまには順番が逆でもいいよね。


 なんとか二十一時には大浴場に入ることが出来た。洗い場に腰掛けていると、なんと浩司先輩がお湯から上がるところだった。

 あ、こっち来る! やっぱり体引き締まってて腹筋割れててかっこいいよお!

「カズ、風呂から出たらちゃんと髪乾かして出掛けられるようにしとけな。冷えるからジャンパーか何か上着も出しとけ」

 歩いて来ながらさらりと言われ、なんのことだかさっぱり判らないながらも「はいっ」とこくこく頷いた。

「あのっ、何処に行けば、」

「あー、大丈夫。呼びに行くから」

 通りすがりにふわりと頭を撫でられ、ひらひらと後ろ手に手を振りながら脱衣所に出て行ってしまった。

 んんー、良く判んないけど、何処か連れてってくれるのかなあ。

 あ、外出届、いるんだろうか。

 一応帰りに部屋に持って帰る事にして、自然とにやける顔を隠しもせずに俺は入浴した。


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