51 セクハラかパワハラか
でもその後のシナリオは楽しかった。大野会長のゲームマスターとしての腕は最高で。たまにポカもあって、でもそれをアドリブで面白おかしく解決してくれる。ルールブックに書いていないところは完全にマスター次第だから、手腕の見せ所だ。
世界観とか物理的な法則とか全部盛り込んだ上で、ここはこうあってもいいんじゃないかと判断すれば、お堅い人なら「ルールにないから出来ない」って言うだろうことでもやらせてくれる。
今日一番の笑いどころは、全員が敵のアジトにばらばらに掴まり、何とか地下牢から出られた俺が出口を探している時のことだ。
「扉を開けると、向こうの隅にいたシェイドが向かってきた。ジェイクの方が敏捷度が上だ、どうする?」
普通はここで攻撃するために武器を持つんだけどな。
捕まっていた俺は当然自分の武器は取り上げられていて、今持っているのは必要筋力が足らないダガー。逃げている途中運良く敵から奪い取ったものを両手でぷるぷるしながら持ち上げているだけ、みたいな状態。ダガーって日本だと飛び道具にもなる小さな剣みたいなイメージだけど、一般の人が片手じゃ持てないくらいの長さと重さを備えているもんなんだ。
しかも闇の精霊は精神にダメージを与える精霊だ。今気絶とか精神錯乱とかされたら洒落にならねえ。
「ドア、元通り閉めます!」
即行で自分の行動を決めると、会長もサトサトも言葉を失った。
「はは、それは愉快ですねー」
今はまだ捉えられたままのシャーこと小橋は笑って眺めていて、マノホッテこと間野も扇子で扇ぎながらにまにましてる。しげくんに至っては、
「その手がありましたか」
なんてポンと手の平に拳を載せたりして。
「どうなるんですか?」
ちらりとサトサトが会長を見ると、ううむと唸って眼鏡を押し上げて、衝立代わりのファイルの向こうでがっくり項垂れている。
「もう攻撃態勢に入っているからな……慣性の法則に従いシェイドはドアにぶつかって霧散した」
そう、効果範囲は術者から二十メートルと結構広いけど、儚い精霊なんだよな……。
おおー、と感嘆のというか、驚愕のどよめきが上がり、それに気を良くした俺はドアを開けては閉めの繰り返しをして無事にその部屋を通過することに成功した。
その後も殆ど運と敏捷度だけを頼りに罠をかいくぐり逃げるジェイク。
「部屋に入った途端に床に異変が。危険察知だ、ダイスロール」
「おし!」
勢い良く振ったブルー・クリスタルは六ゾロ。自動的成功ってやつだ。
「突如口を開けた床にジェイクは回避行動をとった。成功ロール」
「いきます!」
とりゃーっとばかりに転がせばまたしても六ゾロ。
「やりーっ! 華麗に飛び越える俺、かっこいい!」
「うむ──そう、だな」
そんな調子で、恐らくゲームマスター的には最初に見つけたダガーで戦うことを想定していたんだろう敵さんからも機敏に逃げ回り、ひとり脱出して騎士団を呼びにいくことに成功したんだった。
「見事なまでの強運の持ち主だな」
はあと大野会長が溜息をつきながら、経験値を分配してくれて俺はほくほく。活躍具合も経験値に加算されるから、次のシナリオでレンジャーをレベルアップ出来そうだった。
「ダイスは仕込まれていないようですしねえ」
皆が不思議がり代わる代わるに俺のクリスタルダイスを振ってみたものの、ちゃんとイチゾロだって出るし平均値以下も出る。俺が振ったって戦闘の時なんかは殆ど平均値以下だ。
だけど、ここぞという時には六ゾロが出るんだよなあ。自分でも不思議だ。
「その運、マノにも分けてもらいたいものです」
「うわーっ! 言うなあーっ!」
今日も今日とてアンロックの呪文に自動的失敗を出した哀れなソーサラーは、反省会も籠めた座談会で緑茶を啜りながら、小橋にちくちくと苛められていた。
世界最強だが新しい魔術の実験中に暴発させて記憶を失っているという設定のマノホッテは、何しろダイス運が悪い。普通にやっていれば出来るようなことでも、何故か一ゾロを出して失敗になってしまうという傍迷惑なパーティーメンバーだ。
「いいんだいいんだ、どうせ俺なんて……」
部室の隅に行ってしゃがみこみののじを書き始めたのは見るに忍びず、俺はついつい立ち上がって肩を叩いてしまった。
「まあ、次はきっと成功するよ。な?」
パーティーのためにもそうあってくれと願いを込めてにっこり笑い掛けてみると、後ろからは「あーあ」と小橋の声が聞こえてきた。
え? 何? ついさっきまで涙ぐんでなかったですかこの人。
眼鏡の下の瞳がキランと輝いて、がしっと腕を取られる。
「そうだろう、この才気溢れる俺様がそんなに失敗ばかりする筈ねえよな! よし、その強運を俺にも分けろ」
しげくんが、うわあと声を上げるのがかろうじて聞こえたけど、そんなのが全部素通りしていくくらい熱烈にぎゅうーっと抱き締められた。




