50 入れる時と抜く時と最中と、どれが一番痛いのか
応援団の演舞は、一応一通り全員が流して舞える程度にはなっていた。ただやっぱり流れが判っているのときっちり出来ているのかは別問題で、直すべきポイントは山積み。浩司先輩は一人一人の姿勢から入念にチェックして、少しずつ進めているところ。
そんな練習も十五時には終了して、俺はいそいそと部室棟に向かった。
今日はいよいよショートシナリオの日だ。俺にとっては記念すべきTRPGデビューの日だ。なんだかスキップでもしたいくらいのウキウキ感に包まれてドアを開けた。
「ちわーっす!」
が。
「もしかしたら最中が一番痛いのかも知れませんよ?」
「ちっげーよ、抜く時だろ!」
「ええー、それはないだろ」
「常識的に考えたら入れる時だと思うのだが?」
言った順に、小橋、間野、しげくん、会長。そしてそれを無視してルールブックを見詰めているサトサト。
テーブルを囲んで何やら白熱した議論をかましていた……。
「あ、あのー……?」
てか、この人たち、何やってんですか。
「おお、いいところに来たな霧川」
「いいところ?」
「私たち経験がなくて決着が付かなくて困っていたところです」
「経験?」
「お前なら知ってそうだなあ。と、いうわけで教えてくれ」
「はい?」
「「入れる時と抜く時と最中と、どれが一番痛いのか」」
小橋と間野のダブルパンチが。
うええ!?
目を白黒させて皆を見回すも、全員いたって真剣だ。
真剣なのはいいことだけど……どうしてそんな話題をですね! しかも俺なら知ってるって決めて振ってくるんですかーっ!?
仮に俺に彼女がいたとしてもっ! そんなことは男の俺は知らないはずでっ。
ってことはなんですか、俺が入れられる方に見えるって言いたいわけですかそうですか!
頭に血が上ってカッカしちゃってて、顔も絶対真っ赤だよぉ~。これっていじめです……?
「し、知りませんーっ!」
拳を握って叫ぶと、「そうか?」と眼鏡のフレームを人差し指で上げながら、大野会長が首を傾げた。
「確か入学前に入院してただろう。その時にしたんじゃないのかと思ったんだがな」
明らかに残念そうに吐息して、机の上にあったファイルの中の紙をぺらぺらと捲り始めた。
「意識がなかったのかもしれませんよー?」
しげくんがポットの方へ行き、お茶の用意をしてくれている。
「い、意識……ああ、まあ気付いたらもう処置が終わってて、包帯ぐるぐる状態だったけど……」
な、なんだ? 入院? それとこれとどういう関係が。
わけもわからず鞄を下ろして支度を始める俺を、小橋と間野がじいっと目で追っていて。
会長の隣に腰掛ける俺に、にんまりと笑い掛けてきた。
「残念ですねえ、点滴の記憶がないなんて」
「また誰か経験者さがさねえと駄目か~」
あー、残念残念と呟いて、バッと扇子を開いてぱたぱたと扇ぎ始める。
「て、点滴……」
目が点になっている俺の前で、しれっと小橋は湯飲みを持ち上げた。
「おや、点滴以外に何があるというんです?」
「なんか他の事想像してたんじゃねーのぉ?」
こ、こいつらときたら……!
机の上で握り締めた拳がぷるぷると震える。
「「このスケベ」」
駄目押しのようにハモって言われて、俺は卓袱台返ししたくなるのを懸命に堪えたんだった。




