108 体育会! 2
二人三脚はクラス対抗だ。一周走って次のペアにバトンを渡すため、受け取った方が走りながらもう一人へと渡すその連携も大事。あくまでリレーなんだから、バトンの受け渡しが重要なのは当然だった。五周で終わってしまうから一つのカップルのミスが取り返しのつかないロスを生んでしまう事もあるだろう。俺たちは三番目、待ち時間を利用してバトンの受け渡しを確認する。走ってきた人がトラックの内側に逃げるから、受け取るのは左側の左手、つまり俺。そのままさっさと辰に渡しながらスピードを載せて渡し終えたらストライドを広く取る事に決めた。
短い時間にそれを確認して再びトラックに目を移すと、なんと我がB組はドベじゃないですか~……。まああんまりトップと差はついてないんだけどさ、ちょっとがっくり。
「カズ、見せ場がきたな」
隣では辰が二カッと笑っている。
「え?」
「俺らが全員抜きゃいいっしょ。かっこいいぜー」
「えっ」
マジですか!
自信満々の辰に合わせて歩を運び、パスゾーンのラインに立つ。前のチームが走り出してからトラックに出て、辰の声に合わせて足踏み開始。普通なら十五メートルくらいまでくればこっちも走り始めるんだけどそこは二人三脚、あまり離れると受け渡しが難しくなるからぎりぎりまでそのまま待って、走ってきたやつらより少しゆっくりペースで助走してから受け取り、そこから二歩踏み出す勢いで辰にパス。辰がしっかりと受け取り「よし」という声に合わせて練習していた歩幅に変えた。二人でいちにと声を上げながらのペースは俺にとっての全力疾走に近い! 地面を蹴る足がすげー軽い。あっという間に前のチームを二つ抜き、ぎょっとして振り向いてしまったその前のチームも抜いて、ゴール直前でトップに追いついた。
走っている途中に見えたクラスのやつらの表情も凄かったし、他のクラスのヤツも立ち上がって指差しているくらい滅茶苦茶速いペースだったのは間違いなかった。
「行け!」と凛々しい声と共に次のカップルにバトンが移り、俺たちはトラックの内側へと逃げた。
走り終えたクライメイトが次々に俺たちの肩を叩き、すげえと連発しながらアンカーを鼓舞している。まだ息が整わないまま俺もアイコンタクトでアンカーチームに頷き激励し、辰もあのしっとりする美声でなにやら囁いている。
四番目の走者たちが帰ってきて、ラスト一周。幸いにもアンカーは俺たちと一緒に教室でも練習していたやつらだった。かなりのハイペースで飛ばし、前の走者がトップとつけられてしまった差をぐんぐん縮めてゴールの三メートルほど手前で抜いた。そのままもんどりうって倒れ込むようにゴール!
見事一位!
割れんばかりの拍手の中、二人三脚の一年生は退場した。
次の競技が一年生の棒倒しだったため、クラスメイトの大半が入れ替わりにグラウンドに出て行く中で、残った数人にバシバシと背中を叩かれ賞賛される。笑顔で受け答えしながら、辰は足首の手拭いを外すのに悪戦苦闘。ぴったりくっ付いている方が走りやすいからときつめに締めたのが災いしたようで、なかなか外れない。引っ張って更にきつくなってもいけないから、俺は立ったままこれ以上ないくらいに下半身を寄せていた。
智洋も棒倒しに出場するからグラウンドに出ているんだけど、棒の方に顔を向けながらもチラチラとこっちを気にしているのが遠目にも判る。
頑張ってな、と口をパクパクさせながら笑顔を向けると、困ったように顔を歪ませて、それでもホイッスルが鳴ると競技に集中したようだった。
流石に先刻の浩司先輩みたいなスタンドプレーをするやつはいなくて、地味に数人ずつが棒に取り付き、対戦チームはそれを守りながら引き摺り下ろしたりと攻防が続く。その間にようやく手拭いが解けたようで、辰も立ち上がってグラウンドに目を遣った。一緒に眺めていたいのはやまやまなんだけど、解けたなら応援に参加しねえとな。
俺は先輩たちの居る太鼓の方へと回って行った。
一進一退の攻防の末、制したのは白組だった。智洋が棒の先端引き下ろしたのが勝因だっただけに複雑な気分。
周も参加していたけど、負けても楽しそうだった。黒凌って体育会もなかったらしい。辰に抱きつくように話しかけている周を眺めながら、胸の奥がじんわり暖かくなった。
『それでは、次の種目は三年生全員参加の障害物&借り物競争です。三年生は全員集合してください。入場門が赤組、退場門が白組です』
心にゆとりが出来たのか、今までは殆ど耳に入っていなかったアナウンスの声が届いた。弾かれたように入場門に駆けて行く先輩たちを見ながら、一体何をやるんだろうと興味が湧く。
『ご観覧のみなさまに説明いたします。この競技は、最終的に借り物を一番早くこの放送席に持ち帰り、その借り物が指定されたとおりの対象物だと認定されて初めて得点となります。そしてその人の属している組が勝利となります』
ええ? 早い者勝ちの一人だけにしか点が入んねえの!?
サバイバル過ぎる気がすんですけど。




