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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
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【拍手お礼より再録】その時の智洋くん 2

57~68話辺りの智洋視点です。

 なんだか最近苛々しっぱなしだ。自分でもおかしいと思うんだけど、止められねえ。


 相変わらず、和明は解っているのかどうなのか判断が付けられず、軸谷先輩は完全にノーマル嗜好だろうと思っていたのに、帰ってからの様子が変だ。何かあったのかと聞けば、返答せずにどうして一緒に風呂に行けないのかと尋ねてきた。

 んなの、言えるわけがねえ。

 クラスが違ってて、体育も合同じゃなくて良かったと思ってるってのに。

 細い首とか、ふとした時に見える腹とか、それだけで色々と反応しちまうから、大浴場なんか絶対無理だっつーの! 出会った当初はまだ自覚がなかったから一緒に行ってたけど、もう不可能だ。

 でも、だからこそ余計変に思われてるんだろうな。

 一体先輩とどんな会話したんだよ。余計なこと吹き込まれちゃって……。


「言う必要、あんのか?」

 それでも、無言で通すわけにも行かずに口にしてみれば、思った以上に押し殺した冷たい声音になってしまった。

 ヤバイと思ったけど、もう取り返しは付かない。

 さっきからちょっと鼻声だなと思っていたのに、びくりと体を震わせてそれを隠すかのように和明はこちらに背を向けてしまった。

 まさか、泣かせた……?


 自分にそこまでの影響力があるとも思えなかったけど、もう寝ようと促してきた声は、これ以上の会話を拒否していた。しばらくその背中を眺めていたけど、ぴくりとも動かないので諦めて自分のベッドに戻った。


 心配は良い方に裏切られ、翌日は普段通りに挨拶から始まり朝食も一緒に食べた。

 午後はまた先輩たちとビリヤードをするというのでそれはそれで先週よりちょっと複雑な気分。

 軸谷先輩、どういうつもりで和明に構いつけてるんだろ。まさか谷本と一緒とは思えねえけどさ。

 仮に、先輩がそうだったとしたら……。

 もとから先輩のことを大好きな和明にとっては、最高なんじゃねえか? それだったら、俺が何も横槍入れる必要ねえし。先輩がついていてくれるなら、谷本だって大人しくしてるだろう。


 なんかすげえむしゃくしゃしてきて、仲間と打ち合う時にやたらと力が入って大ホームラン打つなんてポカをやらかしてしまった。まさかのフェンス越え……。


 少しスッキリした気分で寮に帰ってきて食堂に入ると、日曜日は早目に食べ終えているはずの和明がいた。こともあろうに対面には谷本が座っていて、しかも食べながら見詰め合ってる……ように、見えるんだけども。まさか、入ってきたのはずっと前だけど、そんな食い方してるせいでまだ食べてるなんてこたあねえだろうな!

 結構怖がっている様子だったのに、どんな風に言いくるめられたのか楽しそうに視線を絡ませているから腹が立つ! いやここは腹が立って当然だろ!

 食事を載せたトレイを片手に持ち、傍に行くなり二人の間にラケットを差し込んだ。

 顔なんか見てんじゃねーよ! くそ谷本め……。

 二人は驚き呆れたような感じだったけど、ここは譲れねえ。後ろで馬鹿笑いしてるやつ、どっか行け。


 二人で一緒に遊戯室に向かったけど、それはもう事前に決まっていることだし、仕方ないと諦めも付いている。どうせあっちにゃ先輩たちが居るし、何もしようがねえだろ。



 約束していた通り、三連休は実家に帰って日中遊ぶことにしたので、一緒にバスと電車を乗り継いで帰宅して、荷物を置いてから商店街の書店で待ち合わせをした。

 待っている間にちらほらと女に声を掛けられる。一人だろうと複数だろうと今はお呼びじゃないから適当に断り続けていると、やけにしつこい三人組に粘られた。

 どうやらその中のショートカットの女が中心的な人物みたいで、他の二人はお追従なんだろう。連れと待ち合わせだと言っても、今は一緒に遊ぶ気分じゃねえと言っても退かない。正直、和明を待っていなければもう少し強く言ってから他の場所に逃げ出したいくらいのしつこさだった。

 ちょっと顔に自信のある女だとこういうことやるやつがいるから困るんだよな……。確かに可愛い系だしちっこいし、他に予定もなくて暇なら遊んでくれる男も多いんだろうと思う。

 けど、もしもそうだったとしても俺ならこんなやつらと無駄な時間を過ごしたくねえ。

 ああ、さっさと離れてえ……。


 げんなりしていると、ようやく和明が現れた。いつも通り天使のような笑顔で手を振りながら近付いてくるのを見ていたら、もしかして和明は一緒に遊びたいとか言い出すんじゃないかと不意に思いつく。

 有り得る。前に谷本にくっついて回っていた時にも、ナンパされて好みの子はいなかったのかと言うような内容の質問されたもんな。きっと今回もそっちの方に気を回して、変なこと言い出すんじゃないか?

 それはちょっと──かなり、嫌だ。


 そう思っていたのに、「悪いけど、用事あるから」と俺の腕を握りずんずんと歩き始めるから驚いた。振り向きもせずにアーケードの下を歩き続け、途切れる頃には人通りも少なくなってきて、それでようやく手を離して足を止めた。

 どうしたんだ、和明。

 勝手に嬉しがって、鼓動が高まっているのを誤魔化したくて、目に付いたショップでソフトクリームを買う。近くに空いているベンチを見つけて並んで座って平らげると、和明がお茶を買ってくれた。ソフトクリームのときに勝手に俺が支払ったから、それのお返しのつもりなんだろう。だけど一本だけって、ちょっと意味深……? でもきっと和明のことだから、深く考えちゃいねえんだろうな。

 あっさり回し飲み要求されたし。

 他のやつとならどうってことないけど、お前とするのは違うだろ……。言えねえけど。


「あのさ、さっき……智洋の意見も聞かずに連れ出してごめんな。なんか、嫌だったから……」

 突然に、そんなことを言われた。

「遊び、行きたかった?」

 立ったまま飲んでいたから、大きな瞳で見つめられてちょっと怯んだ。

 その上目遣い、やべえって!

「全然好みでもなんでもねえんだけど。つうか、声掛けて来るような女が好みじゃねえよ」

「そっか、ならいいんだけど」

 ほっと息をつく様子は、安心していると思っていいのか?

 今すぐ自分をつねってみたい。

 何今の。

 俺が、逆ナンされてんの見て嫌だった?

 女の子気に入って俺に嫉妬したってわけじゃあなさそう。それくらいは俺にだって解る。


 でも、じゃあ……。

 これって両想いって受け取ってもいいんだろうか。いやいや早合点はやめよう。


 もう一度ベンチに腰掛けて、和明が親に言い付かっていることを聞き、二人でうんうん唸ること三十分ほど。

 じっとしているのも勿体無いと和明が言い出したので、正直に自分の気持ちを告げてみた。

「和明と、二人でいたい」

 隣に座っているから、あっちも俺を見ているのを良いことに体ごと捻って正面から見つめると、途端に和明が頬を染めた。

「とも、ひろ……」

 ほろりと紡がれた俺の名前が、熱を帯びているのが解る。

 少なくとも、今この瞬間には頭の中は俺でいっぱいになってる。それが凄く嬉しかった。

 往来だったから、何も出来なかったけどな。


 その後場所を俺の家に移すと、それが大変な失敗だったと悟るまでそう時間はかからなかった。


 玄関から当然付いてくるはずの和明が、いつまで経っても現れない。入る時に姉貴の猫が出そうになって捕まえたから、嬉しそうにしていた和明はきっと撫でたりしてるんだろうと思ったけれど、それにしても遅い。

 リビングのテーブルに二人分のジュースを用意して飲みながら待っているのに来ないから、待ちくたびれて廊下に出てみた。

「!」

 うっかり漏れそうになる声を押し殺し、廊下に寝転がってうちのクソ猫とまふまふしている和明に近寄った。気付きもしねえでセイジと鼻をくっつけたりしてちゅっちゅしてやがる。

 くそ……っ! 可愛すぎるだろお!

 にやけそうになる表情筋を叱咤して無理矢理に渋面を作ると、そっと声を掛けた。

「和明……せめてそれリビングでやってくれ」


 何故かずっとくっついてくるセイジに和明はメロメロだった。あろうことか、

「待ってる間、セイジと遊んでてもいいかなあ」

 なんて言い出す始末。

 俺は和明と二人でゆっくりしたいって言ったよな?

 二人きりっつったら、そこには猫だって頭数にゃ入れたくねえんだよ。

「俺は?」

 じとっと見られて流石に申し訳なく思ったのか、セイジに触れているのと反対の手で顎に触れてきたから、肩の方に体重を預けてみる。

 少し汗を掻いているのか、体臭を感じる。けどそれも甘く誘っているような匂いで……。

 無意識に、唇と舌を肩口に押し付けていた。

 肩口からうなじをなぞるように上がっていくと、

「ぅん……」

 と甘い喘ぎ声が上がり、もう堪らなくて耳朶を甘噛みした。

「な、に……?」

 そのまま耳の後ろを辿るとびくんと跳ねた。止まらなくなってあちこち舐めていると体が逃げようとする。すかさず腰に腕を回して抱き寄せた。

 肌理の細かい肌に口付けて舐め上げ、ところどころ軽く噛む。もうどうしていいのか判らないでされるがままの和明は喘ぎ混じりの吐息をつき、それが更に俺の中の何かを煽り立てる。

「ちょっ、ストップ……智洋、まずいって」

 顔をぺちぺちと叩かれて、流石に動きを止めた。

 熱に浮かされてついついやっちゃったけど、ここって寮じゃなかった……。しかもリビングだし。友達居る時にはあまり寄って来ないとはいえ、他の部屋に母親居るし、その内姉貴も帰って来るし。

「ああ、そっか」

 ああ……どうして俺の部屋に通さなかったんだ。

 いや、それだと我慢が効かなくなってヤバイことになってたかもだけど。


 抱き寄せている体から、熱と共に鼓動が伝わってくる。通常時より速いそれにいい気になっていると、和明がふうっと振り仰いできた。潤んだ瞳が誘っているようで、そのまま屈んで口付ける。

 もう随分慣れてしまったのか、静かに瞼が下りて。

 口には出来ない気持ちを込めて、何度も何度も優しくキスをした。


 好きだ。

 好きだ。

 たとえ軸谷先輩相手でも、お前を渡したくねえよ……。




ちょっとやる気が戻ったので、1日から少し連載します。その後不定期更新予定(ぺこり

良かったらまた応援してやってください~

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