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Hand to Heart 【side A】  作者: 亨珈
猫の恋
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10 知り合いに昇格しました!

 ロングホームルームに引き続きショートホームルームがあり、休憩時間に一旦職員室に戻っていた担任から重要な知らせが届いた。なんと応援団はこの後集合して早速練習前のミーティングするとか! 赤組は格技場、白組は体育館。

 格技場って何処だっけ……ぶらついたとき確か中庭付近にあったかな。よしよし。

 挨拶もそこそこにダッシュで向かおうとしていたら、青野に呼び止められた。二人揃って行くようにだってさ。

 えーっ。もう一人って誰だっけ……。

 全くこれっぽっちも気にしていなかったので改めて黒板を見てみると〈谷本周一郎〉って書いてある。誰だっけ? まだ全然クラスメイト憶えてねえやと思っていたら、

「うっす」

と鞄を小脇に抱えた真ん中分けのやつに声を掛けられた。ちょっとウェーブの入った黒髪で縦長の大人っぽい顔。ごくごく一般的なあっさり風味の日本人顔だが身長はやっぱり俺より高かった。

 くっそ、これでも一応百七十あるんだけどな。この学校で俺より低いやつにあったことないんですけどっ。

「霧川は場所判んの?」

「うん。昼休みに校内探検したから」

「へええ~」

 取り留めのないことを話しながら、俺も自分の幌布の鞄をたすき掛けにして二人並んで歩いた。本校もそうらしいが、校内も全て土足だ。上履きの用意が要らなくて便利だけど、雨の日とか掃除が大変かもな。

 校舎と校門の間に大きな枝垂桜やサークル状の藤棚があり、その傍に格技場がある。体育の授業とは別に格闘技の授業があり、柔道・空手・弓道・剣道から選べることになっている。部活でも勿論使うだろうけど全員がお世話になる場所だった。

 床は当然ぴかぴかに磨き上げられた自然の木のやつだ。一部には畳もしいてあるけれど、俺たちは入り口で靴を脱いでから大太鼓が用意してある一角に向かった。

 どきどきが止まらないのはいつものことだけど、このままじゃ俺壊れるんじゃないかってくらい鼓動が速い。

 あうー! 離れてても一人だけスポットライト当たってるみたいだ! ブレザー脱いで開襟シャツになってるからだけじゃないよ? だってそこに居る四人共上着脱いでるけど、明らかに纏ってるオーラが違いますっ。

「大丈夫か? なんかほっぺ赤いけど……」

 駆け寄りたいのと離れたところからじっくり眺めていたいのと二律相反する気持ちがせめぎ合い、結果的にちょっと歩みがのろくなってしまった。谷本が心配してくれたけど、曖昧に笑って誤魔化した。

 う、嬉しいんだけど緊張するよ~……。芸能人の握手会に並んでいる時のような気持ちっていうのが、一番理解してもらえそうかな。

 四人は多分三年生ばかりなんだろう、なんか真面目な表情で立ったまま話し合いをしている。一年生が五クラス十人、二年生も同じ割合だとしたら総勢十八人か。うん、仲良くなるチャンス沢山ありそう!


 俺たちの後ろからもぱらぱらと人が入ってきている気配がする。谷本は後ろを振り返ったりしてメンバーを確認していたけど、俺は先輩から目が離せない。何か身振り手振りで説明してて、一人は太鼓の撥を持ってリズムを確認している様子。

 もしかして今日ちょっとだけでも練習するのかなあ……。

 少しだけ距離を置いて足を止めると、ふっと浩司先輩がこっちを向いた。

「ああ、その辺りがいいかもな。そこら辺座っといて一年生──あっ、と……カズだっけ」

 床を手で示して俺の顔を見て唇の端を少し上げた。携もそうだからすぐに判る。あれが笑顔なんだよな~。

「は、はいっ」

 上擦った声で返事をして、すとんとその場に腰を下ろして体育座りをする。

 やったー! 名前と顔、憶えてくれてたあっ。

 やっぱり短期間で立て続けに会えたのが良かったんだろうな。

 万歳三唱でもしたい気分。流石に恥ずかしいからしないけど。

 釣られて隣に座った谷本が「知り合い?」と小さい声で尋ねてきて、「ちょっとだけ」と答えて何だか誇らしい気分になる。

 知り合い、かあ~。うん、他人から知り合いになれたんだよなあ。

 じーんと浸っていると、全員が揃ったのかどおんと一回太鼓が鳴って、私語をしていた後ろの奴らがぎょっとして口を閉じた。


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