役所から家庭裁判所へ
さて、俺はこの寒い秋風から自分を守るために暖かなコートが用意されているが、この赤ん坊は何もない。
「どうするかなぁ」
さすがに、一緒に捨てられたバスケットに入れていくのは俺が嫌だし。
「仕方がない、取りあえず爺さんのひざ掛けを巻いて、俺のコートに入れていくか」
支度が終わり鏡で見れば、俺の首の下から顔だけ出す赤ん坊に何となく親ばか感が滲み出ている気がして少し恥ずかしくなるが、これしかないのだから諦めよう。
「けど、このままバスや電車乗り継ぐってまずいよなぁ」
まぁ、車なら十分ほどで着くんだけど俺に免許などない。
「金も無いけど、今日だけだぞ?」
と自分にも赤ん坊にも言い聞かせ、タクシーを呼んだ。帰りにはこの赤ん坊用に服やらオムツやらいろいろと買い込まなくてはいけないし、どちらにせよ足は必要だ。
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ざわざわ、騒がしい役所内にて、俺は残酷な言葉を聞いた。
「養子についてのお手続きは家庭裁判所へお願いいたします」
え?…タクシー代返せ!とは言えず、再び車で向かうは家庭裁判所。
たどり着けば、何やら重々しい空気で、俺と赤ん坊は若干緊張しつつも受付へ進み要件を告げ、必要な書類や手続きを確認。
「はい、このお子さんですね」
「あ、ええと。そうなんです」
「んぅぁ」
親権者不在の手続きをして、養子にしたい旨を話し、流石に今日中に全てが終了してまるっと収まる筈もないので後日続きを行うと告げられて人生初の家庭裁判所を後にした。
そして、今度は歩きながらコートののなかにいる赤ん坊を見てみると何時の間にやら、うつらうつらと瞼を閉じて頭を揺らしていた。
「そうしていると、可愛いんだけどなぁ」
薄紅色したぷくぷくの頬に、可愛い黒檀色の大きな瞳、オムツを変えた時に見たおしりもつるりとしてまるで本物の桃のようだった。
「なんでお前、捨てられたんだろうなぁ?」
本当に、悲しいような、空しいような気持ちになる。
「でも、もし手続きが認められて、晴れて俺の子になったら」
そしたら、俺がお前を守るから。もう嫌だって、お前がどんなにむずがっても、溢れるほどの愛情を…