軋む音
ゴホゴホと咳き込んだ私を見て、脇に寝そべっていた小鉄が眉を寄せた。
「おっさん、風邪かよ」
笑って首を振る。
「なに。少し胸が苦しくてね。恋煩いかな?」
「、は。何言ってんだか」
そう言いながら、小鉄は細い目でまだこちらを見ていた。
笑って、その額を小突く。
「いてっ!」
「はは。そんな顔していたら、眉間にしわが残るぞ」
「…」
小鉄はぷいと向こうを向いてしまった。くす、と笑う。
心配してくれたんだね。ありがとうよ。
小さな頭をなでてやる。チラリと見上げた顔に笑いかけると、何も言わずにダッと駆けていってしまった。
…素直じゃないねぇ。
小鉄がすだれの下をすり抜けると軒下につるした風鈴がチリンと音をたてた。
「…暑い…」
夏もいよいよ盛りになってきたと見え、家の中はまだしも、外はうだるように暑い。毎日のように鳴き続けるセミに小鉄は悪態をついてばかりいるし、向かいの家にある向日葵もぐったりと首をもたげている。
私でさえこんなに暑いのだから、小鉄はなおさらだろう。暑気あたりしないうちに、帰ってくればいいが…。そう思いつつ、ひとつ咳をする。
…そうそう、西瓜でも冷やしておこうかね。小鉄が帰って来たら一緒に食べよう。
行きつけの店の旦那が持ってきた西瓜は、私と小鉄の顔を並べてもまだ大きい。一人で暮らしていた時なら、こんなもらいものは断っていただろう。まぁ、小鉄が食べるのは私の何分の一なのだから、状況はあまり変わらないのだが。
早めに冷やしておいたほうがよいだろう。そう思って立ち上がる。
ゴホッと咳が出た。痰がからんだのだろうか。咳が止まらない。手元のてぬぐいを口に押し当てる。
…ゴホゴホ、ゴホッ!
…はぁ、と息をつく。胸が苦しい。いったい今日はどうしたのだろう。
日頃の不養生がたたったわけではあるまい。小鉄いわく、私は真面目すぎる人のようだからね。
ふと、嫌な感触がして、手拭いに目を落とした。声を失う。
…これ、は…
足元が崩れた気がしたのは、きっと錯覚だろう。畳が目の前に迫ってきて、強い衝撃が体を貫く。
痛みは、けだるい暑さにのまれていった。意識がだんだん遠のいていく。
ニャー…
「…こてつ…?」
次第に消えゆく視界に、二つの光を見た気がした。




