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座頭の銃

 八柱の話を聞いた翌日の昼過ぎには、威吹鬼は依頼主の屋敷の門前にバイクを止め、呆気に取られていた。

(でかい家だな)

 確かに大きい。そこら中にあふれている長屋とは、まず建っている場所からして違う。郊外の高台だ。あらゆるものが密集している下町とは違い、隣の屋敷との間隔がまるっきり広い。ぽつりぽつりと、余裕を持たせて品良く建てられている。敷地面積にしても、「ウチのお屋敷はこの辺りでも小さくて、本当に恥ずかしいんですのよ」と、大きな宝石のついた指輪をぎらつかせながらお上品なご夫人がのたまおうと、下町長屋だったら五棟はすっぽりと入ってしまうだろう。

 しかし依頼主の屋敷は、長屋が十棟すっぽり入ってしまうほど大きかった。異国風の建物だ。部屋数など、いくつあるか見当もつかない。大きな宝石をぎらつかせたご夫人が「本当に恥ずかしいんですのよ」と言うのも頷ける。

(八柱さんは貴族の家柄だ、とか言ってたっけ)

 胸の内で威吹鬼は呟き、門をくぐる。すると正面玄関の巨大なドアがあり、これもまた冗談のように巨大な鉄製のドアノッカーがついていた。

 威吹鬼はそれを手にし、ドアを二度ノックした。ごん、ごん、という威吹鬼が想像していたよりもはるかに大きな音が木製のドア全体に響いた。

(これくらいでかい音なら、この屋敷のどこにいても聞こえるんだろうか?)

 威吹鬼は返答を少し待ち、もう一度ごん、ごん、とノックした。そしていつもの癖で、素早く全身を撫で回し、装備を確かめた――。


「まったく荒っぽく使ってくれやがる」

 唇をいびつに歪め、皮肉混じりにかには言った。

「だから武器商人としてはリペア代だけでも儲かってしょうがねえ、だろ」

 威吹鬼はにやりと笑いながら言った。

「その通り。商売繁盛で言うことねえ」

 蟹は、その名の通り蟹の甲羅そっくりの顔を赤くして笑った。

 平たく言えば、賞金稼ぎに武器を売る武器商人。妖撃舎のある神都のすぐそば、油霞町の裏通りの地下に小さな店を開いている。がめつく、下世話な性格だ。

 ただ、腕のいい鉄砲鍛冶であることは確かで、威吹鬼の武器はすべて蟹の手作りだ。妖撃舎のお抱えハンター達も、多くは蟹が作った武器を使っている。

「コングは少しだけ改良しておいた」

 蟹は分厚い木製の作業台の上に、例の巨大な拳銃を置いた。

「へえ。どんなふうに?」

「銃身の先っちょのとこだ。ガス抜き用の穴をいくつか開けた。ほら、ここだ。フロントサイトの横だ。連射しても反動と銃身の跳ね上がりが抑えられるし、銃身が熱を持ち過ぎることもない」

「なるほどな」

「それからな、試しにこの弾丸を使ってみろ」

 蟹はコングの横に大きな弾丸を一つ立てて置いた。

「十四ミリアーマーピエシング弾だ。弾芯が特殊鋼でできてる。タングステンガーバイトって特殊鋼の弾芯を、銅でコーティングしてあるんだ。今までの四五四カスールよりも一回りでかいだろ」

「貫通力があるってことか」

「そうだ。どんな化け物でも一撃で倒せる抜群の貫通力を持つ」

 蟹は唇を歪めて笑った。

「ウラでしか流通してねえ」

「ウラ? この店に、オモテで流通してる武器がなんぼほどあるんだよ?」

「違いない」

 威吹鬼はコングを革製ホルスターから抜き、ぶんぶん振って重さと取り回し感を確かめてみる。その様を、蟹は呆れ顔で見た。

「装弾数は十発。十発の弾丸込みで、七キロだぞ。ほとんど自動小銃みたいな重さだ」

「そうなのか?」

「そうだよ。そいつは威吹鬼、あんた専用のハンドガンだ。並の人間にゃ振り回すことも撃つことも無理だ。一発で腕がぶっ壊れる」

 蟹は作業台にボール紙製の箱を一つ載せた。

「アーマーピエシング弾だ。とりあえず百発」

「ああ」

 威吹鬼は銃を腰のガンベルトにつけた。

「赤尾は研いでくれたか」

 蟹は「おっと」と小さく言って奥の作業場を行き、大振りのナイフを抱えるように持って戻ってきた。

「こいつを忘れるとこだ」

 蟹からナイフを受け取り、威吹鬼は鞘からするりと抜き放った。そして目の高さに切っ先を持ってきて、軽く振ってみる。

「いいな」

「まったくねえ、こんな無茶なオーダーに応えるのは俺くらいのもんだぜ。刃渡り四十センチ、幅十センチ、ブレードの厚み二センチ。三キロはあるな。そりゃああんた方が相手してる化け物ほどタチは悪くないがね、そのナイフももはや化け物だぜ。そんな細い腕でよく振れるもんだね」

「俺は、信頼できる相方を作ってくれってオーダーしたんだ。化け物をオーダーしたつもりはねえ」

「いいや、俺に言わせりゃ化け物だ。そいつは完全にナイフの化け物だよ。そんな化け物で、一体何を斬るつもりなんだい?」

「決まってんだろ? その、化け物の首さ」

「なるほど」

 蟹はまたへっへっ、といやらしく笑った。赤い顔が脂でてかりと光っている。威吹鬼は黙ってナイフを鞘に収め、背負った。

「約束の二十だ」

 威吹鬼は紙幣の束を作業台に置いた。蟹は眉間にしわを寄せた。

「特殊な弾丸を用意してるんで本当は二十五、と言いたいところだが。まあお得意様だ。二十にしとこう」

「当然だろ。約束の額だ」

「かなわねえな」

 蟹は卑屈に笑った。威吹鬼はきびすを返し、地上へ出る階段へ向かった。

「じゃあな。ありがとよ」

「また来てくれよ」

「生きてたらな」

「生きてたら、か。兵隊さん、今度はどこの戦場に出兵しなさるね?」

 威吹鬼は階段の途中で足を止め、振り向かずに言った。

「いつもと同じだよ。あの世とこの世の、境界だ」


 ほどなくして、大きなドアは内側からゆっくりと開いた。ドアが軋む大きな音に、威吹鬼の回想は断ち切られた。

「……妖撃舎の威吹鬼様ですね。お待ち申し上げておりました」

 低い声だった。長身痩躯の、初老の男だ。白いものの混じった髪をぴったりと後ろに撫でつけ、闇夜のような漆黒のスーツを着ている。

「……妖撃舎に……ウチに依頼された方ですか?」

 威吹鬼の問いに男は軽く頷き、

「使用人頭のらくと申します」

と名乗った。

「私が連絡差し上げました。しかし、依頼主は私ではありません。この館のあるじです」

 そう言って洛はドアを大きく開け、威吹鬼に入室をうながした。

「ようこそ高羅たから家へ」

 威吹鬼は、ぼんやりと薄明るい室内に足を踏み入れた。目を閉じたまま躊躇することなく洛の脇をするりとすり抜けた威吹鬼を、洛はじろりと目で追った。



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