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隣に立つ  作者: 松本ゆきみ


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隣に立つ

朝は、いつも通りだった。

カーテンの隙間から入る光。

コーヒーの匂い。

洗濯機の回る音。

須郷迅は、

ネクタイを結びながら時計を見る。

佐藤玲奈は、

キッチンで弁当箱を閉じた。

「……今日は遅くなる」

迅が言う。

「会議、長いですか」

「たぶん」

それだけ。

説明も、

詫びもない。

「分かりました」

玲奈は、

即答した。

代案も、

確認もいらない。

出勤前、

玄関で靴を履く。

迅が、

一瞬だけ立ち止まった。

「……先、出る」

「はい」

扉が閉まる。

いつもと同じ音。

それなのに——

不安は、ない。

会社の昼休み。

迅は、スマホを見る。

通知は、ない。

それでいい。

(……並んでる)

声を聞かなくても、

姿を見なくても、

同じ一日を生きている。

夕方。

玲奈は、スーパーで必要なものだけを買った。

余計なものは、入れない。

(……今日は、

 鍋でいい)

理由は、

簡単で温かいから。

夜。

先に帰った玲奈が、

鍋を火にかける。

湯気が立つ。

時計を見る。

まだ、少し早い。

(……待てる)

その感覚が、

前とは違う。

玄関が鳴る。

「……ただいま」

迅の声。

「おかえりなさい」

鍋の火を弱める。

鞄を置く音。

上着を掛ける音。

生活の音が、

重なる。

食卓に並ぶ。

「……どうだった」

「現実だった」

短いやり取り。

それで、

足りる。

食後、

ソファに並ぶ。

触れない。

でも、

離れてもいない。

「……なぁ」

迅が言う。

「俺さ」

一拍。

「前は、

 “隣にいてほしい”

 って思ってた」

玲奈は、

こちらを見る。

「今は?」

「……隣に立ってる」

違いは、

大きい。

「捕まえたいでも、

 離したくないでもねぇ」

言葉を選ぶ。

「同じ方向を向いて、

 同じ地面に立ってる」

玲奈は、

ゆっくり頷いた。

「私も」

自分の番。

「前は、

 一人で立てることが

 強さだと思ってました」

一拍。

「今は、

 一人で立てる人と

 並べることが、

 強さだと思ってます」

迅は、

それを聞いて、

小さく息を吐いた。

「……じゃあ」

立ち上がる。

「明日も、

 そうするか」

約束じゃない。

確認でもない。

選択だ。

「はい」

即答。

夜、

同じ部屋で眠る。

灯りを落とす。

手が、

自然に触れる。

絡めない。

でも、

離さない。

「……おやすみ」

「……おやすみ」

暗闇の中で、

二人はそれぞれの呼吸を保つ。

依存しない。

見捨てない。

助けない。

でも、

見逃さない。

それが、

二人が選んだ関係だった。

名前は、

もう要らない。

隣に立つ。

それだけで、

確定している。


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