並ぶという関係
結果が出た日だった。
進学。
就職。
それぞれの紙に、
それぞれの文字が並ぶ。
須郷迅は、
その紙を折って、
鞄の中にしまった。
逃げなかった。
迷った。
揺れた。
それでも、
選んだ。
放課後の校舎裏。
フェンスの向こうで、
風が鳴っている。
佐藤玲奈は、
先にそこにいた。
「……終わりましたか」
「……ああ」
短い返事。
でも、声は落ち着いている。
二人は、
少しだけ距離を空けて立った。
近すぎない。
遠すぎない。
「結果」
玲奈が言う。
「聞きますか」
迅は、
一瞬だけ考えてから首を振った。
「今じゃなくていい」
その判断が、
もう以前と違う。
「……考えたことは?」
玲奈は、
そう聞いた。
迅は、
空を一度見てから、
言葉を探した。
「俺さ」
「前は、
お前が隣にいると、
楽になると思ってた」
正直な声。
「でもそれって、
寄りかかる前だった」
玲奈は、
何も言わずに聞いている。
「今は」
迅は、
自分の胸に軽く手を当てた。
「楽じゃねぇ」
はっきり言った。
「でも、
立てる」
その一言に、
玲奈は小さく息を吸った。
「……私も」
今度は、
自分が言葉にする番だった。
「前は、
平気な顔をすることで、
ちゃんとしてると思ってました」
一拍。
「でもそれ、
誰にも寄らない代わりに、
誰も入れないやり方でした」
迅が、
こちらを見る。
逃げない目。
「今は」
玲奈は、
続ける。
「一人で立てます」
「でも、
一人で立たなくてもいいと、
思ってます」
沈黙。
でも、
重くはない。
迅が、
ゆっくり言った。
「……なぁ」
「俺らの関係さ」
言葉を選ぶ。
「恋人、
とかじゃねぇよな」
玲奈は、
すぐに否定しなかった。
「まだ、
違いますね」
「でも」
迅は、
少しだけ笑った。
「他人でも、
ねぇな」
「はい」
玲奈も、
小さく笑う。
「依存でも、
救済でもなくて」
「束縛も、
放置もなくて」
言葉を、
並べていく。
「……並ぶ」
二人の声が、
ほぼ同時に重なった。
「それが、
今の名前ですね」
玲奈が言う。
迅は、
一度だけ頷いた。
「逃げないで、
それぞれの夜を越えて」
「朝、
同じ地面に立てる関係」
「……重いな」
迅が言って、
すぐに付け足す。
「でも、
嫌じゃねぇ」
「私もです」
夕方の空が、
少し赤くなる。
校舎の影が、
長く伸びる。
「行くか」
「はい」
それぞれの帰り道。
同じ方向。
でも、
同じ歩幅じゃない。
それでいい。
依存しない。
見捨てない。
助けない。
でも、
見逃さない。
それが、
二人が選んだ関係だった。
第2章は、
ここで終わる。
“並ぶ”という定義を得て。




