選択前夜
夜は、相変わらず静かだった。
それが、少しだけ怖い。
須郷迅は、机に向かったまま、
進路資料を閉じた。
読み切ったわけじゃない。
答えを出したわけでもない。
ただ——
これ以上見ても、揺れるだけだと分かった。
(……逃げてねぇよな)
自分に問いかける。
今日は、
誰にも連絡していない。
頼らなかった。
縋らなかった。
それだけで、
胸の奥が少し痛む。
一方で、
佐藤玲奈は自室の明かりを落としていた。
布団に入っても、
目は冴えている。
机の上には、
二本線を引いた進路メモ。
第一希望。
第二希望。
どちらも、現実的だ。
(……それでも)
どちらを選んでも、
何かを手放す。
「平気」
そう言い聞かせる癖が、
今夜はうまく機能しなかった。
スマホが震える。
——迅。
短い文。
『明日、
面談の結果、
話していいか』
玲奈は、
すぐには返さなかった。
(……揺れてる)
それは、
依存じゃない。
選択の前に立っている人間の揺れだ。
しばらくして、
短く打つ。
『はい。
聞きます』
それだけ。
迅は、
その返信を見て、
深く息を吐いた。
(……並んでる)
でも、
決めるのは自分だ。
玲奈も、
天井を見つめながら思う。
(……並んでる)
でも、
代わりに選ぶことはできない。
夜は、
何も起こさなかった。
声を聞かなかった。
会わなかった。
それでも、
それぞれの場所で、
選択の前に立っていた。
それが、
最後の揺れだった。




