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隣に立つ  作者: 松本ゆきみ


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18/28

面談の日

1.佐藤玲奈

進路指導室の前は、

思ったより静かだった。

廊下の突き当たり。

掲示物の色が少し褪せている。

「……佐藤」

名前を呼ばれて、

玲奈は一歩前に出た。

扉の向こうで、

担任が椅子を引く音がする。

「座って」

言われた通りに座る。

机の上には、

進路希望調査票と、

成績表。

「第一希望は、

 このままでいいな」

確認の声。

「はい」

即答。

「理由も、

 前に聞いた通り?」

「はい」

ぶれない。

迷っていない。

担任は、

少しだけペンを止めた。

「……無理してないか?」

第4話でも聞かれた言葉。

でも今日は、

意味が違う。

玲奈は、

一瞬だけ考えてから答えた。

「無理は、

 していると思います」

担任の視線が、

初めて真正面から向く。

「でも」

玲奈は、

言葉を続ける。

「自分で選んだ無理です」

逃げ道を残さない言い方。

「ただ——」

少し、息を吸う。

「一つに賭けるのは、

 やめました」

机の端に置いたメモを示す。

第二希望。

現実的な線。

「この二本で、

 考えています」

担任は、

ゆっくり頷いた。

「……いい判断だ」

評価でも、

励ましでもない。

「真面目な生徒ほど、

 自分を追い込む」

一拍。

「選択肢を残すのは、

 逃げじゃない」

その言葉に、

胸の奥が少しだけ緩む。

「面談は、

 これで終わりだ」

立ち上がる。

「決めるのは、

 佐藤だ」

扉を出ると、

廊下の空気が軽かった。

(……通った)

合格じゃない。

でも、

自分の選び方が否定されなかった。

それで、十分だった。


2.須郷迅

同じ部屋。

同じ机。

でも、

須郷迅の座り方は違った。

背もたれに寄りかからず、

机に両肘もつかない。

逃げる姿勢じゃない。

身構えている姿勢だ。

「須郷」

担任が言う。

「進路、

 未定のままだな」

「はい」

即答。

言い訳はしない。

「正直に聞く」

担任は、

ペンを置いた。

「逃げているのか?」

真正面からの質問。

迅は、

一瞬だけ目を伏せてから、

顔を上げた。

「……逃げてた時期は、

 ありました」

過去形。

「今は?」

「考えてます」

短い。

でも、嘘はない。

「進学か、就職か」

担任は、

二つの言葉を並べる。

「どちらかは、

 選ばなきゃならない」

「分かってます」

「じゃあ、

 何で決まらない」

迅は、

拳を軽く握った。

「……決めたら、

 戻れなくなる気がしてました」

正直すぎる言葉。

担任は、

少しだけ表情を変えた。

「それは、

 大人でも同じだ」

即答だった。

「選択は、

 全部そうだ」

迅は、

少し驚いた。

「だから」

担任は続ける。

「戻れないから、

 逃げない選択をしろ」

「……はい」

「完璧な選択じゃなくていい」

一拍。

「逃げない姿勢が、

 続くかどうかだ」

迅は、

深く息を吸った。

「……就職も、

 ちゃんと調べます」

初めて、

具体が出た。

担任は、

小さく頷く。

「それでいい」

評価でも、

期待でもない。

「須郷は、

 逃げない方が向いてる」

その言葉が、

胸に残った。

廊下に出る。

少し、

足が軽い。

(……一人で立てた)

助けられていない。

でも、

突き放されてもいない。

それが、

今の自分にちょうどいい。


3.廊下で

廊下の端で、

佐藤玲奈が待っていた。

「……終わりましたか」

「……ああ」

言葉は少ない。

でも、

顔を見れば分かる。

「どうでした?」

「……現実だった」

玲奈は、

少し笑った。

「私もです」

それだけで、

共有できる。

結果を聞かない。

評価を比べない。

「……なぁ」

迅が言う。

「逃げないってさ」

一拍。

「一人で決めるってことでも、

 あるんだな」

玲奈は、

ゆっくり頷いた。

「でも」

続ける。

「考えたことを、

 話す相手がいるのは、

 一人じゃないと思います」

迅は、

否定しなかった。

二人は、

並んで歩き出す。

選択は、

それぞれ別だ。

でも——

現実に向き合う姿勢は、

 同じだった。

それが、

今日一番の収穫だった。


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