平気じゃない夜
その夜、
佐藤玲奈は、布団に入っても眠れなかった。
理由は、はっきりしている。
昼の迅の言葉が、
胸の奥に残っていた。
「夜は、俺が越える」
強い言葉だった。
正しい言葉でもあった。
でも——
それを聞いた瞬間、
胸が少し、痛んだ。
(……私は)
(平気な顔を、
しすぎていたかもしれない)
家の中は静かだ。
両親はもう寝ている。
安心できるはずの空間。
それなのに、
落ち着かない。
スマホを手に取る。
画面は暗い。
(連絡しない)
それは、
迅のためでもある。
でも同時に、
自分が頼らないためでもあった。
玲奈は、天井を見つめる。
(……平気じゃない)
会えない夜は、
本当は少しだけ、寂しい。
迅が揺れるほどではない。
でも、
ゼロでもない。
今まで、
それを「問題ない」と処理してきた。
ちゃんとしているから。
大丈夫な側だから。
でも——
それも、境界線の外側だった。
(……私も、
夜を一人で越えてる)
声に出さずに、
そう認める。
それだけで、
少し楽になった。
スマホが震えた。
一瞬、心臓が跳ねる。
——迅。
『今日は、ちゃんと越えられそうだ』
短い文。
玲奈は、しばらく考えてから、
返事を打った。
『よかったです』
それだけ。
続けない。
でも、
胸の奥が温かい。
(……並んでる)
依存でも、
救済でもない。
それでも、
同じ夜を生きている。
布団の中で、
玲奈はようやく目を閉じた。
平気じゃない夜を、
誰にも預けずに。
それは、
迅が越えようとしている夜と、
同じ種類のものだった。




