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隣に立つ  作者: 松本ゆきみ


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14/20

翌朝

朝の空気は、軽かった。

昨日と同じ時間に起きて、

同じ朝食を食べて、

同じ道を歩く。

それなのに——

玲奈は、胸の奥に小さな引っかかりを感じていた。

校門の前。

須郷迅は、もう来ていた。

立っている。

壁にもたれていない。

でも、

視線が少しだけ低い。

「……おはよう」

声をかけると、

迅は一瞬遅れて顔を上げた。

「……おはよう」

返事は、普通。

でも、

目が、少しだけ疲れている。

(……夜、

 ちゃんと越えられたかな)

並んで歩く。

昨日と同じ距離。

同じ歩幅。

それなのに、

空気が違う。

「昨日」

玲奈は、あえて軽く切り出した。

「眠れましたか」

迅は、ほんの一瞬だけ、

言葉を探した。

「……まあな」

嘘ではない。

でも、

全部でもない。

(……あ)

玲奈は、確信した。

——越えかけた。

昨夜、

迅は自分で自分を止めた。

だからこそ、

今ここに立っている。

「……ありがとうございます」

小さな声で言う。

迅が、驚いたようにこちらを見る。

「何がだ」

「立ってきてくれて」

それだけ。

迅は、何も言わなかった。

でも、

肩の力が、少しだけ抜けた。

教室に入る。

いつもの席。

いつもの朝。

でも、

玲奈は分かっていた。

(次は、

 私が“平気な顔”をする番じゃない)

迅が越えかけた夜を、

見なかったことにはしない。

救う必要はない。

支える必要もない。

ただ——

越えなかったことを、

 ちゃんと価値として扱う。

それが、

次に自分がやるべきことだ。

チャイムが鳴る。

迅は前を向いた。

昨日より、

ほんの少しだけ、

自分の足で立っている。

その変化に気づいたのは、

きっと、

自分だけだった。

それでいい。

夜を越えた人間は、

朝に、

派手な印を残さない。


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