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隣に立つ  作者: 松本ゆきみ


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11/13

会えない夜

その日は、特に何もなかった。

放課後、

玲奈は委員会の仕事で少し遅くなり、

そのまま真っ直ぐ家に帰った。

夕飯を食べて、

風呂に入って、

明日の準備をする。

スマホを見る。

特別な通知はない。

(……今日は、

 会わない日だ)

そう判断して、

それ以上考えなかった。

母が廊下から声をかける。

「明日、早いんでしょ?」

「はい」

「無理しないでね」

「大丈夫」

そのやり取りだけで、

夜は成立する。

部屋に戻り、

ベッドに横になる。

静かだ。

でも、不安はない。

(……ちゃんと、

 自分の夜だ)

眠くなったら、

眠る。

会えない夜は、

特別なことじゃない。

一方で——

須郷迅は、

同じ夜を、

まったく違う形で過ごしていた。

部屋の灯りを落として、

ベッドに座ったまま動かない。

スマホを、

何度も裏返す。

通知は、来ない。

(……委員会か)

昼間、

そう言っていた。

分かっている。

理由も、

責める権利がないことも。

それなのに——

胸の奥が、落ち着かない。

(会えねぇだけだ)

昨日までなら、

それで済んだ。

でも今は、

会えないことが、

 説明の要る出来事になっている。

時計を見る。

まだ、早い。

でも、

時間が進まない。

(……何してんだ、俺)

玲奈の夜は、

きっと、穏やかだ。

家に帰って、

誰かの声を聞いて、

眠る。

それが想像できてしまうのが、

一番きつい。

(……平気なんだろうな)

それが、

羨ましかった。

スマホが震える。

一瞬で、

心拍が上がる。

——違う。

広告。

迅は、

スマホを放り出した。

(……依存してる)

はっきりと、

そう思った。

会えない夜を、

「耐える対象」にしている。

それはもう、

基準がずれている。

玲奈は、

会えない夜でも、

自分の夜を保っている。

俺だけが、

揺れている。

その差が、

静かに、

胸を削った。

夜は、

何事もなく過ぎていった。

玲奈にとっては。

迅にとっては、

何も起きなかったこと自体が、

 事件だった。


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