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隣に立つ  作者: 松本ゆきみ


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1/9

校舎裏の問題児と、逃げない女

佐藤玲奈は、争いごとが得意な人間ではなかった。

大きな声も、荒い言葉も、できれば避けて通りたい。

だからといって、

逃げる性格でもない。

昼休み、購買へ向かう途中。

校舎裏から聞こえてきた声に、玲奈は足を止めた。

「だから、返せって言ってんだろ」

低く荒れた声。

続いて、短く切り捨てるような声が返る。

「……知らねぇ」

校舎裏に立っていたのは二人の男子生徒だった。

一人は、見覚えのある顔。

須郷迅。

この学校で知らない者はいない問題児だ。

短い黒髪、鋭い目つき、着崩した制服。

近づくだけで空気が変わるタイプ。

相手の男子は苛立った様子で一歩踏み込むが、

迅は動かない。

逃げれば終わる場面だった。

教師が来れば、相手の方が不利になる。

それでも迅は、逃げなかった。

怒鳴らない。

殴らない。

ただ、立っている。

その姿を見て、

玲奈は違和感を覚えた。

――荒れてるんじゃない。

――立ち止まってるだけだ。

考えるより先に、口が動いた。

「昼休み、終わりますよ」

二人が同時にこちらを見る。

「教頭、すぐ巡回します。

 巻き込まれるの、嫌なら移動したほうがいいです」

場違いな声だったと思う。

自分でもそう感じた。

相手の男子は舌打ちし、

「チッ……覚えとけよ」と吐き捨てて去っていった。

残ったのは、須郷迅だけ。

「……なんだよ」

低い声が、玲奈に向けられる。

「助けたつもり?」

「違います」

即答した。

「喧嘩になると、面倒なので」

迅は一瞬、目を細めた。

「変なやつ」

そう言いながら、

どこか困ったような顔をしている。

「名前」

突然、聞かれた。

「佐藤玲奈です」

「ふーん」

興味なさそうに言いながら、

視線だけは外さない。

「お前さ」

一拍。

「俺のこと、怖くねぇの?」

少し考えてから、玲奈は答えた。

「怖いですけど……

 逃げる理由にはなりません」

沈黙。

迅は、何も言わなかった。

チャイムが鳴る。

昼休みの終わりを告げる音。

「行くぞ」

そう言って、迅は歩き出す。

「どこへ?」

「教室。

 サボると後で面倒だろ」

問題児という噂とは、少し違う。

振り返らずに、迅が言った。

「次、首突っ込むな。

 俺がやりづらくなる」

それは拒絶の言葉のはずだった。

でも、

関わるな、とは言われなかった。

玲奈はその背中を見ながら思う。

――この人は、

――隣に立たれることを、嫌がってない。

それが、

須郷迅と佐藤玲奈が最初に絡んだ日のことだった。

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