ホットケーキ作戦
海岸から上陸した巨大なエビのような怪物は、まっすぐ開拓村を目指していた。
この間の襲撃で、すっかり味を占めたに違いない。また、大勢の開拓民を食らうつもりなのだ。
そうはさせない。
作戦の責任者である若きリノは、あらかじめ準備しておいた砂浜に準備しておいた巨大なタライの蓋を開けた。
中には小麦粉を砂糖を水で練ったものが、たっぷり入っている。その甘い匂いを嗅ぎつけたのか、怪物は進路を変えた。
よし、中に入った。今だ!
タイミングを見計らって、右手を振り下ろす。が、どういうわけか、スイッチが入らない。
ちくしょう、故障だ!
リノは一瞬で決心を固めると、隠れ場所から飛び出し、装置にとりついて、手動で電源を入れた。
たちまち数千ボルトの電気が走り、小麦粉沼と、そのなかの怪物を焼き尽くしていく。
その様子を満足気に眺めたところで、リノは気を失った。
……このエビホットケーキはな、その時以来、この地の名物として、食われるようになったのじゃよ。あの悲劇を忘れぬためにな。
顔の半分に感電による黒々とした傷跡の残るリノばあちゃんは、そう言いながら、久々に集まった親族たちの前に、次々と皿を並べた。
うれしげなその姿に、まだ年幼いひ孫さえ、文句は言ったりはしない。が、皆おしなべて、その表情は暗かった。
今までに何回も聞かされたから、名物の由来はよく知っているよ。忘れるべきじゃないし、語り継出でいくべきだと思うよ。けれど……。
さあ、では、いただこうじゃないか。
ばあちゃんはそう言うと、ナイフとフォークを手に、神妙な表情でホットケーキを口に運ぶ。
その様子に、皆観念して、目の前のホットケーキの小片を口に含んだ。
たちまち、甘ったるい上に生臭くて土臭くて焦げ臭くて粉っぽい、凄まじい味が脳天を突き刺す。反射的に吐き出しそうになるのをなんとかこらえ、涙目で飲み込む。
後に大発展する開拓村の礎となった貴い犠牲を忘れないための名物。それはよく分かっているのだが……だが、しみじみとまずい。
しかし、開拓村を人口10万を数える都市にまで発展させた大功労者のばあちゃんに、その事を訴えられる者はいない。ばあちゃんが黙々と食べ続けている以上、自分たちだって食べないわけにはいかないのだ。
一口頬張るたび、皆の口から嗚咽とも悲鳴ともいえないうめき声が漏れる。
こうして、悲劇の記憶は毎年新たなものとなり、語り継がれていくのであった。




