庭園でのひととき
お久しぶりの投稿になってしまいました・・・!
皆さま、いかがお過ごしですか〜?
とっても、暑い毎日ですが、頑張って生き抜いていきましょう!ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
少し、長めです!
よろしくお願いします!
「お願い致します、ラージェント公爵様」
「もちろんです」
そう言って、わたしはアルヴィンのエスコートでその場を離れたのだった。
「まあ、綺麗な絵ですわ。ラージェント公爵様は、絵画などはお好きですか?」
静かな廊下にコツコツと二人の歩む音が聞こえるのが、いたたまれなくて、思わず話しかける。アルヴ
ィンはこちらを微笑みとともにちらりと見遣ってから、うーん、と呟いた。
「そうですねえ、絵画か。あまり考えたことはありませんが、あって不快な気持ちになることはありませ
んね」
それは確かに好きというのか、微妙ね。心の中で冷静に分析しながらも、わたしは微笑みを崩さず、まあ、とこぼした。
「そうですのね。不快な気持ちになるもの、とは言い得て妙ですわね」
「変わった表現だったでしょうか」
「いいえ。けれど、好きか嫌いか、を尋ねておりますのに、不快な気持ちにはならないでは答えになっていないとは思いますわね」
そう言って、ふんわりふんわりと広がり、しぼむドレスを眺める。隣のアルヴィンが、目を見はっているとも知らずに。
それからは会話もなく、ただただ二人でひたすらに歩き続けて、開放されたという庭園についた。
「まああ!素敵だわ!」
思わず子どものような声をあげてしまう。けれど、それほどの魅力がこの庭園にはあった。
柔らかな新緑を照らす日光。美しく手入れされた石庭。縁側から見える景色まで、しっかりと配慮されている。
「素敵なお庭だわ・・・」
呆然として、呟く。どうして、このような完璧な配置を思いつくのだろう。
「王妃殿下が『渡り人』らしいですよ」
ミゲルのはっきりとした言葉にはっと息を呑む。知らないうちにアルヴィンの方に視線をやっていた。
「渡り人・・・」
渡り人とは、その名の通り、わたってきた人だ。世界を。この世界の他に、もう一つの世界があるらしい。ニホンという国があって、そこから生まれ変わって、こちらの世界に来るのだとか。そう言えば、王妃殿下は髪の毛も瞳も黒色だったな、と思い出す。
「そう・・・でしたか。あ、もちろん、誰にも申しません」
わたしがはっとして、慌ててそう宣言すると、アルヴィンは嘘くさい笑顔ではははっと笑った。
「もうすぐしたら、王妃殿下も公言なさるそうですから、それほど重要なことではありませんよ。それまでは黙っていただいたら」
・・・それ、めちゃめちゃ重要なやつだろ!
心の中で突っ込みたくなるこの気持ち、誰か分かってくれ。
「ええ・・・と。とにかく、誰にも申しませんので」
「ははっ。真面目ですね、貴女」
いや、当然のことでしょおっ!?と叫びたい。もう叫んで良いかな?
「どうかされましたか?」
「あ、いえ。・・・王妃殿下はお優しくて、包容力のあるおかたですね」
「義姉上・・・はそうですねえ・・・。まあ、少々やんちゃなところがありますけどね」
「えっ?とてもそうは見えませんわ。淑女の鑑だなあ、とばかり思っていました・・・」
「義姉上も光栄でしょうね」
「あっ、申し訳ございません。上から目線の意見になってしまっていましたか?」
わたしが慌てて謝罪すると、アルヴィンはいいえと頭を振った。
「そんなことはありませんよ。ただ、貴女のようなお淑やかな女性にいわれるのは、嬉しいだろうと思いまして」
アルヴィンはにこっと笑った。「こちらこそ、謝らせてしまったようで、申し訳ありません」と謝罪までされてしまった。
「全然っ!そんな・・・謝らせたとか、そう言ったことは全く、ないんです」
「そうでしたか。良かったです」
ずっとニコニコとしているアルヴィン。見ていると、何故か引き込まれそうになる。駄目だ、引き込まれたら、終わりな気がする。けれど、こんな人と結婚するのか、わたしは。
「こちらへどうぞ。もっと身心地が良いですよ」
「あっ、ありがとうございます!」
招かれるところへ、向かう。すると、爽やかな風が春の匂いを運んできてくれた。
「素敵な場所だわ・・・」
「お気に召していただけて何よりです。ここは、結婚後、貴女の管理下となるので、お好きなように使ってくれてかまいませんからね」
「えっ、ここをわたくしが管理させていただくのですか?」
驚いて尋ねると、アルヴィンがニコニコと笑ったまま、頷いた。にこにこと笑いすぎて、頬が引きつるなんてことはないのだろうか。
「はい、そうですよ。ここは代々王族の者が管理していたので。先代王の時は、王弟妃がやっていましたから、今回もそうするつもりだと、兄上に言われていますしね」
「そう、なんですか。今はどなたがここを・・・?」
きいてから、バカな質問をしたと気づいた。王妃殿下に決まっている。
「今は、実は私の管理下なんですよ」
「えっ、そうなんですか。けれど、あの、質問しておいてなんですけれど、王妃殿下が管理なさっていたようなお話を先ほどされていたようですが・・・?」
疑問に思い、尋ねると、彼は「ああ」と呟いた。
「実は、元々は王妃殿下が受け持とうとしてくださっていたんですが・・・。義姉上が持つのはいかがなものか、元々は王弟妃が管理するものなのだから、王弟が管理すれば良いといってくる王族が中にはおりましてね。その者をだまら・・・おっと、失礼。その者の言う通りに致しましょうと言う事で、私が受け持ったんですが、元々、改造する気が満々だった義姉上にお願いしたと言うわけなんですよ」
「あら、そうだったんですね。その方を黙らせるために、ですか」
わたしがニコニコとアルヴィンと同じように笑いながら、さらりと指摘する。彼は、悪戯がばれたような少年のような笑みをつくって、「ええ、そうです。すみません、口が滑りました」と白状した。
「あはっ、別にかまわないですよ。けれど、大変でしょうね。わたくしが管理するのも少し心配ですから、王妃殿下にお任せしようかしら。けれど、それだと仕事を増やしている事になってしまいますね」
そよそよと吹いてくる風に目を閉じながら、呟く。アルヴィンが身じろぎしたのが分かる。
「気にしなくていいと思いますよ。義姉上はそれほど仕事を厭わないんです」
「そうなんですね。それは、周りの方も助かるでしょうね。仕事をいやがるような人でしたら、支えにく
いですものね」
そう感想をぽつりと言いながら、ゆっくりと目を開けた。もう、疲れは消え去り、代わりに爽快感のみが残されていた。
アルヴィンの方を見ると、ぼんやりとしている。焦点の合っていない目から、ぼーっと一点を見ているようでみていない、とただただ安らぎに身を任せているようだ。幼子のような表情が印象的だった。
「・・・ああ、もうこんな時間だ。いかないといけませんね」
アルヴィンに促され、時計を見させてもらうと、たしかにここにきてからもう一時間も経っていた。
「ここ、素晴らしい場所ですね。思わず、すっかりくつろいでしまいましたわ」
「お気に召したようで良かったです。貴女が妃になった暁には、似たような庭園をいくつか用意させましょう」
「えっ、あの、いえ、ご無理なさらず・・・」
わたしが慌てて、控えめな笑みを浮かべる。アルヴィンは、苦笑した。
「いえいえ、王弟の名にかけて、ご用意致します。さあ、もう時間ですから、参りましょうか」
そう言って、自然な仕草で腕を差し出してくれる。
「ありがとうございます・・・」
お礼をいって、手を遠慮がちにかける。
「今日は大したおもてなしもできず、すみません。また今度は薔薇園でも作り上げておきましょう」「えっ、いえ、そんな大したことはいりません!むしろ、今日は、とても楽しかったので、この庭園にまたきたいのですけれど・・・。駄目でしょうか?」
アルヴィンを上目遣いで見つめると、彼はハッとしたように呆然とした。それから、ゆっくりと作り笑
いを浮かべた。
「ここでよろしいのですか?もっと、別の場所を用意しますが・・・?」
「いえ!むしろ、ここの雰囲気がわたくし、大好きになりましたの。ですから、また連れてきてくださるのなら、大歓迎ですわ」
「そうなのですね。では、また次もここにしましょう」
「はいっ!」
大きく頷いて、淑女らしくない仕草だったと気づくのは、屋敷についてからのことだった。
引き続き、読んでくださり、ありがとうございます٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
まだ、続きます!
投稿は不定期に行いますが、頑張るので、読んでくださると嬉しいですᕦ(ò_óˇ)ᕤ