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スクランブルワールド  作者: 人鳥
第一話 初めての吸血鬼体験
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4

読みにくわ!

とかそういうものも受け付けています。

 翌日、少女は部屋の片隅に座っていた。布団が使われた形跡はあるので睡眠はとっているようだ。

「朝食はパン派だから、悪いけど付き合ってくれよ」

 布団をしまって、ちゃぶ台を準備する。少女は部屋の隅でぼくの行動を静かに見ていた。

 パンを焼いているあいだにインスタントコーヒーを作る。ぼくはブラック派だけど、少女がどうかわからなかったので、一応ミルクと砂糖を入れておく。

 焼きあがったパンにぼくはマーガリンを塗った。ジャムは使わないので、残念ながら冷蔵庫には入っていない。少女には悪いが、ここは我慢してもらおう。

「ほら」

 ちゃぶ台にパンとコーヒーを並べる。

「今日は学校休みだから、ちゃんと今日帰って両親に謝っておきなよ?」

 パンにかじりつく少女は少しだけ視線をぼくに向けた。昨日よりも表情が増えていた。ぼくの言葉に困ったような表情を返したのだ。

「いやいや、家出は駄目だろ? 心配してるって」

 なおも少女は困ったような顔をしていたが、こっちだって何日もここにいられても困るのだ。今日明日は学校が休みだが、明後日からは普通に学校がある。そうなったとき、少女一人をこの部屋に残しておくことはできない。

「すぐに帰れなんて言わないけど、今日中には帰りなよ」

 夕食くらいまでなら面倒を見ようか。……というか、この子、どう見ても同年代なんだよな。さっきからまるで自分が年上みたいに言ってるけど。

 朝食を食べ終え、少女は少しだけ笑った。お礼なのかもしれなかった。言葉は伝わらないが、表情で伝えてくれればまだわかる。けれど、昨日のあの無表情は一体なんだったのだろう。あの感情が欠落したような無表情にはなにか理由があったのだろうか。

 ただ、少し笑った少女の笑みが、どうしようもなくかわいかった。

「食器片付けてくるから、君、悪いけど、ちゃぶ台の上を拭いてくれない? 後でふきんを渡すから」

 これくらいしてくれてもいいだろう。既に風呂と二食を提供しているのだから。少女は素直にうなずくと、小さく笑った。

 流し台に食器を置き、ふきんを洗って絞り、少女に渡した。

「じゃ、よろしく。拭いたら持ってきて」

 流し台に戻り、食器を洗う。いつもは一人分の食器が、今朝は二人分。少しだけ新鮮な気分を味わった。

 少女はすぐにふきんを持ってきた。

「ありがと」

 少女は小さく笑い、また戻っていった。またあの場所に座っているのだろうか。

 食器を洗い終え、あとは自然乾燥に任せることにする。少女はやはり、あの場所に座っていた。普段のぼくなら、まず立ち読みをしにいくのだが、今日ばかりはそうもいかない。それに、彼女は表情を得たのだから、会話くらいできるだろう。

「君は家出してきたのか?」

 少女はふるふると首を振った。どうやら違うらしい。しかし、ならどうしてあの時間にあの場所で立っていたのだろう。そして、どうしてぼくについてきたのだろう。聞いてみたいが、これは質問しても答えられないだろう。表情でしか、ぼくに伝達する術を持たないのだから。

「君は日本人?」

 少女はふるふると首を振った。ひどく困ったような表情だった。

「海外の人なんだ」

 しかし、少女は首を振った。よくわからない。だったら、この少女はどこの国の人間だというのだろうか。

「国籍がわからない?」

 こくん、と少女はうなずいた。軽いめまいを覚える。それではまるで、まるで、気づいたらあの場所に立っていて、それまでの記憶が無いみたいじゃないか。

「君は記憶喪失? 昨日よりも前の記憶はある?」

 こくん、と少女はうなずく。記憶があるのに、自分の国籍がわからない。どれほど奇特な環境で過ごしてきたのだろうか。しかし、日本語は理解しているようだし。

「英語は理解できる?」

 少女はうなずく。

「フランス語は?」

 少女はうなずいた。

「むしろ理解できない言語がない」

 少女はうなずいた。冗談だろうけれど、冗談が通じるほどに気を許してくれたのはうれしい。


 それから今度はぼく自身のことを話していた。気がつくと昼が来ていた。

「あ、昼ごはんか。うーん。卵丼でいい?」

 少女は少し困惑したような表情を見せたけれど、すぐにうなずいた。

「じゃあ、作るから待ってて」

 冷蔵庫を開けて、卵とかまぼこを取り出す。あと使いかけの玉ねぎ。

 気がつくと、少女がぼくの隣に立っていた。

「……卵丼、初めて?」

 こくん、と少女はうなずいた。

 興味深そうにぼくが料理しているところを見ていた。

 卵丼を作るのに、それほど時間は掛からない。すぐに出来上がり、どんぶりにご飯を盛って、ご飯の上にかける。

「箸で大丈夫?」

 少女はうなずいた。

 円卓にどんぶりと箸、それからお茶を置く。

「どうぞ」

 少女は笑ってどんぶりを食べ始めた。昨日からずっと栄養バランスがかなり偏ってしまっているが、まあ、どうしようもない。今晩は野菜炒めでもしよう。

「おいしい」

「だろ? …………え?」

「卵丼っておいしいんだ。うん。昨日のうどんってのよりおいしいよ」

「き、君、しゃべれたのか」

 すると少女は、何を当たり前なことを、と言いたげな顔で

「当たり前じゃない。ちょっと力が弱まってて今まで駄目だったけど」

 どんぶりに残った米粒を一粒ずつ箸でつまみとって食べる。

「そうか。じゃあ、まず聞きたいことがあったんだ」

「うん?」

「君の名前は?」

「あー、そっか。昨日は聞こえてなかったもんね」

 そう言って彼女はどんぶりを置いた。一粒の米も残っていない。

「わたしはリーゼ・ブリュスタン。よろしく」

 そう言って右手を差し出す。ぼくは反射的にそれを握り返した。

「リゼって呼んでくれていいよ、タク」

「あ、ああ。じゃあ、リゼ。君は昨日、何をしてたんだ?」

「えっと――――っ」

 リゼが口を開いた瞬間、ぼくの部屋の窓が割れ、そこから一人の男が部屋に侵入してきた。

 黒のロングコート。白い手袋には、なにやら紋章のようなものが記されている。

「探したぞ、リーゼ・ブリュスタン。今度こそ、貴様を消滅させる」

 男はぼくには一切目もくれず、そんな物騒なことを口走った。要するにそれは、リゼを殺すということだ。それに対しリゼは、

「あら、できる?」

 と、不敵な笑みで応えたのだった。

「昼の貴様は、夜よりも死にやすいだろう? それに夜だったとしても私はお前を殺しきる自信はある」

「はは、機関の人間は怖いね」

 正直、目の前で展開されている光景に、ぼくの理解力は全く追いついていなかった。一体これは何が起きているのだろう。

 男はおもむろにコートの中に手をいれ、そこから白い固まりを取り出した。それが銃であることに気づくのに、ぼくはしばらく時間を要した。

「〈虚構(シグナル)殺し(グリーン)〉か。前にも使ってたけど、わたしには通用しなかったじゃない」

「そうでもないだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()

「でも、今はフルパワーで対応できるよ。えっと、名前なんだっけ?」

「名前は無い。♯と呼ばれている」

「来なさい、♯。遊んであげる」

「ほざけ」

 そして、♯と名乗った男が銃をリゼに向けた。

「待て!」

「? なんだ? 人間の少年。邪魔をするなら、痛い目にあうぞ?」

「うるさい! 人の家を破壊しておいて一言も無しか!」

 思わず怒鳴ってしまう。

 男はさげすむような目でぼくを見た。

「ふん。悪かったな。コレで満足か? 私はこいつを消滅させるという使命がある。邪魔をするな」

「だから、無理だって」

「お前ら、何の話をしてるんだよ!」

 話の流れが全くわからない。この男が何者かもわからないし、よく考えてみれば、このリゼだって何者なのかが分からない。

「……興が冷めた。リーゼ・ブリュスタン。次の機会だ」

 男はそう言い残し、窓から去ってしまった。

「何だったんだ……、あいつ」

「機関の人間」

「だから機関ってなに?……そもそも、君は何者なんだ」

「信じられないかもしれないんだけど……」

 そう言って、彼女――――リーゼ・ブリュスタンは笑う。

 馬鹿みたいにきれいな姿の彼女は、馬鹿みたいにかわいい仕草でそう切り出した。

「わたしね……()()()()()()……」

 ふわりと、ここが部屋の中なのにも関わらず、彼女の金色の髪がなびいた気がした。

 はにかんだ口の中。

 人間にしては発達しすぎた犬歯がきらめいていた。


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