2
読みにくい!
とか
そういうご意見ありましたら遠慮せずに言ってください。
なにぶん投稿は初心者なので、今後の参考にしてよりよくしていきます。
昼休み。
この学校は屋上を開放している。というわけで、屋上で昼食を食べる学生は結構多い。学食で食べる学生も。ただ、ぼくたちは基本的に中庭だった。中庭には芝生が敷き詰められていて、木が何本か立っている。木陰の下で食べる昼食も、中々いいものなのだが、ここで昼食をとる人は少なかった。外に出てくるのが面倒なのかもしれない。
今日は珍しく細江さんと夏樹とぼくの三人だった。いつもは細江さんが女子のグループと一緒に食べてしまうので、こうして三人で食べるのも久しぶりだった。
「久しぶりだね、こういうの」
細江さんも同じことを思ったのだろう、中庭に設置された椅子に座りながらそう言った。
「男二人、中庭で食べるのは寂しかったぜ」
夏樹がそう答えると、細江さんは小さく笑った。
「そうなんじゃないかなって」
「これからもたまには顔を出してくれよ。正直、夏樹と二人は疲れるから」
「なにおぅ! 失敬だな」
「ぼくは基本的にロウテンションな人間なの」
「足立くんと平野くんって、正反対だもんね」
「で細江はその中間」
細江さんを指差しながら夏樹が笑う。
確かにそうなのかもしれない。それでもこんなにもばらばらな人間が集まって、普段から一緒にいられるのは、どこかでバランスが取れているのだろう。案外こういうのが丁度いいのかもしれない。
昨日の雨のせいで濡れてしまっている芝生。乾ききっていない椅子。それでもやはりぼくたちはここで食べる。別に約束をしているわけでもないけれど、ここに集まってくる。こんなことは中学ではなかった。中学は給食があったし、休み時間も放課後も、ぼくは誰かと一緒にいることは少なかった。友達がいなかったわけではない。ただ、『親しい』友達が少なかった――――いや、いなかった。
「平野くんのサンドウィッチっていつもおいしそうだよね」
「サンドウィッチは見かけだけなら、だいたいの場合おいしそうに見えるよ」
「うーん、でもやっぱりおいしそう」
「一つ食べる?」
「ほんと?」
「どうぞ」
細江さんの弁当の蓋の上にサンドウィッチを一つ置く。もちろん夏樹にはあげない。こいつは当然のように、すでにぼくのタッパーから一つ掻っ攫っているのだ。
細江さんは一口そのサンドウィッチを食べると、顔をほころばせた。
「おいしいよ。うん、おいしい」
サンドウィッチなんて誰でもおいしく作れるだろうと思ったけれど、それは言わないことにした。こんなものでも、褒めてもらって悪い気はしないのだ。
「お粗末様でした」
謙遜にもならないことを言って、タッパーをしまう。
「あれ? もう食べないの?」
「うん? もう全部食べたけど」
見てみると、細江さんの弁当箱にはまだ半分ほど残っていた。どうも話のほうに力が入っていたらしい。
「まあ、昼休みもまだ半分以上あるから、焦らずに食べなよ。どうせ、ぼくたちはここでずっと話してるんだから」
「そうそう。俺たちを昼休みに校舎内で見られるのは雨の日くらいさ」
さすがにそれほどではない、と突っ込みたいところだったけど、考えてみれば昼食をここで食べるようになってから、雨の日以外はここで食べていた。
ちょっとしたテラスのような、そんな雰囲気のこの中庭は昼食をとるにはいい雰囲気の場所なのだ。
「たしかにここ、いい場所だよね。どうしてみんなここで食べないのかな?」
「さあ? めんどーなんじゃねーの? 屋上って人気スポットもあるし」
缶コーヒーの蓋を開けながら、やや投げやりに夏樹が言う。
「ほら、アレとアレは高いところがアレってやつ」
「わからん」
それに真性にして神性の馬鹿であるお前にそれは言われたくはないだろう。こいつの馬鹿さ加減はその内わかってくるだろう。
一つ例を挙げるなら、入学式が終わり、クラスメイトが自分たちの教室で緊張しながらそろそろ行動を開始しようと動きかけていたとき、こいつは一人、ただ一人で、筋トレをしていた。後から本人に直接聞いた話、普段は全く筋トレなんてしていないのだけど、その日のその時、急に筋トレがしたくなったらしい。その時はみんながどういう風に動いていいかわからないという硬い緊張の中、ふっふっふっ……という声が教室を支配していたのだ。
それ以外にも、この一ヶ月あまりでこいつはその馬鹿さの片鱗を見せ付けてくれている。正直疲れるのだ。
ぼくが住む安アパートには何人かの住人がいるけれど、その人たちの紹介はその人に出会ったときにすることにしよう。あんまり会うことがないから、忘れてしまれてはこちらも少し悲しい。一つ言えることは、みんな決して悪い人ではないということだ。いい人という部類に入るだろう。
部屋に戻っても、ぼくという人間は何もすることがない。
今日もコンビニに行くことにしよう。
私服に着替えて薄手の上着を着てコンビニに向かう。もちろん、目的は立ち読みだ。そこで得られる結果は昨日と大差ないのだろうけれど、暇つぶしという観点から言えばこれ以上にない暇つぶしの手段なのだった。テレビゲームなんていうハイテクアイテムは、残念ながらぼくの部屋には装備されていない。それはぼく自身があまりゲームに興味を持っていないという理由、ではなくて、ただ、あの安アパートの狭い部屋がさらに狭くなるのを恐れての結果だった。
コンビニには数人がいた。店員さんには顔を覚えられていて、ぼくが店にはいると、小さく笑顔を向け、本棚のほうを指してくれる。前に少し話してみたところ、少しは商品も買っていけ、だそうだ。もちろん、こんな言葉遣いではなかったけれど。
今日手に取った雑誌も、あまり面白いものではなかったけれど、それでも昨日のものよりはマシだった。やはり、あの世界学の影響力は強いらしい。
雑誌一冊を全体的に、適当に読んで、ぼくはふらふらと店内を歩いた。さすがコンビニ、いろいろなものが売られている。下着すら売っているのにはさすがに驚いたが。まあ、需要があるのだろう。ボテチの袋一つを手にレジに向かう。ついでにから揚げを一つ注文した。
「ありゃ、君めずらしいね」
「ええ。たまには」
店員さんは意外そうな表情のまま会計を受け取り、意外そうな顔のままぼくを送り出した。どうやら、ぼくが商品を買うことは想定外だったらしい。さすがにいくらぼくとはいえ、いつまでもただで雑誌を立ち読みするほど図太い神経を持っていない。
から揚げを食べ終えた頃、また雨が降り出した。通り雨だろうが、今日の雨は昨日の雨よりも格段に強い雨で、さすがのぼくも走り出した。やっぱり、傘を買う気にはなれなかった。
土砂降りの中、歩きなれた道を走る。雨が降っているので、今は月明かりなんてものは存在しない。あるのは、申し訳程度に設置された街灯の光だけだ。時折水溜りを踏んで、勢いよく水しぶきを上げる。それがまた自分にかかってしまうが、どうせこれだけの雨量なら関係ないだろう。
「あーくそっ! 二日連続とか、本気でツイてない!」
わき目も振らずに走る。
と。
申し訳程度に設置された街灯の明かりの下。
ぼくと同じくこの土砂降りの中、傘もささずに立ち尽くす一人の少女を見つけた。