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今回少し長いです。
タイトル間違えてました…。
どうして自分の作品なのに間違うの?
それはあり得ない光景だった。いや、こうして目の前で起きている以上、ぼくは認めなくてはいけない。
たとえそれが理解を超えていたとしても。
伝承にあるインプみたいな変なやつが――大量に出現しているという現状を。
「なんだよ……これ」
インプの一体がぼくに気づいて襲ってくる。
「あぶない!」
下から声がして、ぼくに突進してくるインプが切り裂かれた。
「リ、リゼ」
インプを撃破したのはリゼで、その爪でインプを裂いていた。
「大丈夫?」
「あ、ああ」
「リゼちゃん! 緊急事態宣言が発令されている! ただ、どういうわけかあいつらが出現しているのはこの地域だけらしい!」
黒木さんの声。
「黒木さん! どういうことですか!」
「少年、起きたか。言ったままの意味だよ」
「こりゃすごいな」
隣の部屋の千堂さんが騒ぎで目を覚まして部屋から出てきた。けれど、千堂さんはすでにそれを知っていたかのように、目の前の状態を受け入れていた。ただその規模に驚いているだけ、そういう風に見える。
「千堂さん。危ないので部屋に――」
とはいえ、千堂さんは一般の大学生だ。ぼくたちみたいに戦う術を持っていない。
「……すぐに黒木さんの部屋に来てくれよ」
「え?」
聞き返す間もなく、千堂さんは廊下から飛び降りてしまった。
「なっ」
「驚くことはないよ。拓と人影兄妹以外はみんなこのくらいできる」
「タク! みんな黒木さんのところにいるから早く」
「あ、ああ!」
階段を駆け下り、黒木さんの部屋に入る。そこには昨日鍋を囲んだ、陽平以外のメンバー全員が揃っていた。
「揃ったね。よし単刀直入に、一番大事なことを言おう。リゼちゃんは気づいているかもしれないが、ここにいる平野少年以外は基本的に、この世界の純粋な人間じゃない」
純粋な人間じゃ――――ない?
「どういう……」
「悪いね、拓。ぼくも吉岡も黒木さんも人影兄妹も、知ってのとおりブリュスタンも、みんなこの世界の、元々の住人じゃない」
だからそれはどういうことだ。それをどうして今言う必要がある。
「順番に説明しよう」
黒木さんが言う。
「まず、このアパートは本来、あたした《、ちのような存在のためのアパートだ。だから厳密には平野少年みたいなのはイレギュラーなんだよね。本来ここにいるべきモノじゃないの」
「……」
「そうだね。もう隠す必要もないしね。リゼちゃんは吸血鬼でしょ?」
黒木さんがリゼを指差す。
その指が今度は千堂さんに向く。
「千堂くんは仙人だったよね?」
こくん、と千堂さんがうなずく。
その指は吉岡さんに向けられる。
「沙紀ちゃんはカマイタチ」
吉岡さんは曖昧に微笑みながらうなずく。
最後に、その指は人影兄妹に向けられた。
「あの二人は二人で一人の存在。鏡の向こう側というものを存在として顕現させた、概念個体。でも、まあ、限りなく人間ね。それぞれに意思はあるし、命も別物だから。だけど、どんなに決定的に違っても悲しいほどに同じな存在なの」
宗次は優しい笑みを。
京香ちゃんは少し悲しそうだった。
「そして私は魔法使い。魔力と呼ばれる力が宿ってる」
「拓さんごめんなさい。今まで隠してて」
京香ちゃんが本当に申し訳無さそうに、今にも泣きそうな声でそう言った。
「そんな……京香ちゃんが謝るようなことじゃない」
そう。これは誰の責任でもなければ、謝らなくてはいけないようなことでもない。
「でも、どうして今、このことを言わなければならなかったんですか?」
「わたしたちがいきなり人外の力を使ったら、たっくんがびっくりしちゃうからね」
「といっても、僕と京香と千堂さんには戦闘能力はありませんけど」
「ここはわたしが守るよー」
吉岡さんが手を両手で拳を作って言う。
「じゃあ、吉岡頼むよ」
「任せて、千堂くん」
「というわけだ。あたしたちは外のあいつらの親玉を潰しに行くよ」
「黒木さん、あいつらが何か知ってるんですか?」
「あれは使い魔だよ。魔法使いが召喚術を使って呼び出す下級の悪魔。でも、あれだけの量だと結構魔力を喰われるから、何人かの魔法使いが操ってるか、一人の異端が操ってるかのどちらかね」
「黒木さん、その一人の異端というのは?」
宗次が聞く。
「エレーナ・リューゼンディッヒという魔法使いで、召喚術を専門にしてる。魔法使いには協会って呼ばれてる組織があるんだけど、そこの規則破って永久追放及び世界と次元に対する指名手配されてる大物犯罪者さ」
「そんなものが、この町に?」
「可能性の話だよ、もちろんね。あたしはこれからあの使い魔の親玉を探す魔法を使う。少年とリゼちゃんは町を、沙紀ちゃんはここを守ってくれるかな?」
「もちろんだよー」
「わかりました」
「タク、行こう!」
リゼがぼくの手を取って駆け出す。
腰から魔銃を取り出す。
「灰谷に連絡はしたか?」
「うん。でも、コトネ、もう火が吐けないみたい」
「どういうことだよ」
それはとても厳しいことに聞えた。ドラゴンの武器は炎で、事実、林間学校で竜殺しと対峙したとき、基本的な攻撃の始動は炎による攻撃だった。それが牽制としての攻撃ならまだいいが、メインの攻撃だとしたらそれはかなり厳しいことになる。
「ドラゴンの姿に戻れば無尽蔵らしいけど……」
ドラゴンの姿に戻る。それは魅力的な提案だったけれど、町の中で五大竜と謳われたドラゴンが戦っても大丈夫なものだろうか。
ぼくには町が一瞬で消し炭になる気しかしない。
竜殺しの時に大丈夫だったのは、それが一対一でかつ、灰谷は全力でなく陽平が未熟だったからに過ぎない。今回の場合、たとえ灰谷が全力で攻撃しなくても、使い魔は全力かつ強力な攻撃を仕掛けてくるだろう。まだ使い魔の力の程度も分からないうちから、ドラゴンの姿に戻るのは危険が大きい。
「だからね、タク」
走る。走る。
ひとまず、この小さな町の小さな商店街へ。
「タクが持ってる力――魔銃の力が重要になるんだよ」
「……」
ぼくはまだこの銃を発砲したことはない。それはする必要もなかったからだし、ぼく自身が、この魔銃を撃つことに恐れを抱いていたからだ。
「……わかってる」
虚構の存在を殺す魔銃――〈虚構殺し〉。
今回がそのデビュー戦だった。
走りながら携帯電話を取り出す。アドレス帳から細江さんの番号を探して、電話をかけた。無性に心配になってきたのだ。
「もしもし?」
細江さんはすぐに電話に出た。
「もしもし、平野だけど、細江さん大丈夫?」
「大丈夫だよ。外に変なの一杯いるけど、アレ何? 緊急事態宣言も出てるし」
「詳しくはぼくもよくわからないけど、細江さんは絶対に外には出ないように」
「うん。でも、平野くんは今外にいるよね?」
「ああ。この状態をどうにかするためにね」
「どうにかって?」
「解決するんだよ」
「え?」
疑問の声。確かに理解できないだろう。彼女はまだ魔銃の存在を知らない。ぼくなんかが何かをできるとは思えないだろう。
「リゼと灰谷も行動に出てるんだ。だからコトが解決するまで外には出ないでくれよ」
「う、うん。……がんばれ。それから、気をつけてね」
「ああ」
電話を切る。あんまり意味がある会話ではなかった。ただ、本当に自分の中では自然な流れだった。もしかしたらぼくは、細江さんから最後の言葉を聞きたかったのかもしれない。そう思うと、最初に心配に思ったのも自分自身に対してではないかと思えてくる。
商店街には誰一人として人はおらず、まるで廃墟のような有様だった。それは異様な光景で、人の代わりにあたりを我が物顔で動き回る使い魔が妙に癪に障る。
「こんなにたくさん……」
ここまで来るのに、もう十体は使い魔を撃退している。銃を構える暇もなく、リゼが爪で切り裂いたのだけど。
倒しても。倒しても。
数が減っているという実感がわかない。
使い魔の一体がこちらに気づく。それに呼応して、まわりを跋扈していた使い魔もぼくたちの存在に気がついた。
「タクッ!」
腰から魔銃を抜き、使い魔にその銃口を向ける。
震える手。
敵だとわかっていても、このままでは殺されるとわかっていても、銃を持つこの手の震えは収まらない。
殺す。
ころす。
コロス。
今まで生きてきた中で、この言葉をこれほど自覚的に考えたことはなかった。
♯が来た時も、竜殺しの時だって、ぼくはどこか他人事のように思っていたのかもしれない。いや、事実そうなのだろう。
「タクッ!」
リゼが叫ぶ。使い魔はすでに目前まで迫っていて。
ぼくは無我夢中に――――引き金を引いた。




