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タイトル間違ってましたね・・・。
修正しました。
キャンプ場、つまりはこの林間学校の目的地に到着したのはそれからしばらく経ってからだったけれど、あまり距離はなかったようだ。
案の定、リゼと灰谷はすでに到着していて、ごみと荷物を適当な場所にかためておいて遊んでいる。先生もまだ到着してない(先生も下のクラスメイトたちと一緒に登ってきている)今は、絶好の遊び時間なのだ。
離れた場所から、灰谷とリゼは距離を測るようにじりじりと円を描くように移動している。
一体何をしているのだろう。
疑問に思って声をかけようとした瞬間、灰谷の口から青緑色《、》の光が放たれた。それは前に石動に向けられたような、口元からもれるようなものではない。完全に、口から吐き出されていた。
リゼはそれを難なくかわし、灰谷のほうへと駆け出した。リゼにかわされた青緑の光は、何かに当たる前に分解されるように消滅した。
灰谷が連続して青緑の光を放つ。
リゼがそれをかわし、かわされた青緑の光はすぐに消滅する。
二人の距離がどんどんと詰まっていく。あと少しのところで、リゼが一気に加速し、その手を灰谷に伸ばす。灰谷が後ろに跳躍し、リゼの手から逃れる。
「一度のジャンプでどんだけ跳んでんだよ」
隣で夏樹が引きつった声を出していた。
というより、そんなことよりも、だ。
「あいつら、何やってるんだ」
ケンカでもしたのだろうか。だとしたら止めなくてはいけない。このまま放っておくと殺し合いにでも発展しそうだ。
今の段階でも十分そういう風に見えるけど。
腕が空振り、リゼが体勢を崩した。灰谷はその隙を逃す事無く、また一度の跳躍でリゼの正面に降り立った。どれほどの勢いなのか、着地した地面が抉れてしまう。
突き出される拳――いや、あれは爪。
リゼは間一髪それをかわすが、崩れた姿勢からの回避行動は、さらに自らの体勢をくずしてしまう結果となった。
バランスを崩したリゼを、灰谷の両手が捕まえた。
「おいっ! 二人とも止めろ!」
叫んだ。
ぼくの叫びが聞えたのか、二人の視線がこちらに向いた。その表情は、ケンカをしているといった表情ではなく、そう、困惑だった。どうして止められるのかわからない、そう言いたげな顔だった。
「やっと来たか、二人とも」
やれやれと息をつき、自分の足で立ったリゼの体から手を離した。それから二人は並んでぼくたちのほうへと駆け寄ってきた。
「遅いよ、二人とも」
「あ、ああ、悪い。で、二人は今何をしてたんだよ?」
「俺たちからはケンカしてるように見えたんだぜ?」
すると彼女たちはお互いに顔を見合わせ、納得したように手を打った。
「さっきのはケンカじゃないよ。遊んでただけ」
「遊んでただけって」
灰谷は普通に何かを吐き出していたし、リゼだって積極的に攻撃を仕掛けていた。リゼが戦う姿を前にも見ているけれど、それとあまり変わらないほどの積極性だった。
「ああ。会えたのも何かの縁だろうから、ちょっと手合わせしてたんだ」
「で、でもよー、灰谷、お前さっきあの変な光吐いてたじゃん!」
そうだ。もしあの光がリゼに直撃していたらどうなっていたか。
「え? あれくらいの強さなら直撃しても一瞬で治るよ?」
「オレだって手加減はしている。射程距離もリゼが立っていた場所よりも五十センチだけ長いくらいだ。あと、あれは光じゃなくてオレの炎だ」
「びっくりさせるなよ。ぼくも夏樹も気が気じゃなかったんだ」
「え、あ、ご、ごめん」
「それは悪かった」
「ま、ケンカじゃなくて良かった。で、リゼちゃんと灰谷、どっちが勝ったんだ?」
ははは、と笑いながら夏樹が聞く。
「二戦ニ勝で、コトネの勝ちだよ。もしコトネが本当の姿だったら、わたしなんて一瞬も生きてられないよ」
「それは言いすぎだろ。リゼだって今が夜ならもっと戦えていたと思うぞ。闇に溶けることだってできただろうしな」
「うーん。闇に溶けても、コトネの息吹で消し飛びそうだけどなぁ」
目の前で現実離れした会話が展開されているような気がするのだが、これは気のせいだろうか。違うような気がする。夏樹はもう会話を理解する気もなくなったのだろう、どこかへ歩いていってしまった。
ぼくも少しこの辺りを見てまわることにしよう。
キャンプ場は広く、山であることを生かして、さらに坂を上ればここと同様のキャンプ場があるようだ。ここまで来る道はもう一つあり、そちらのほうからも何やら賑やかな声が聞えてきた。
「あれ? こっちから登ってくる班なんてあったっけ?」
たしか事前の話では、全班一斉に同じ地点から登ってくるっていう話だったはずだ。
一般の人が利用しに来ているのだろうか。といっても、今日は平日だし……。
しばらくその賑やかな声がする方を見ていると、地元の中学生の一団が見えた。
「は? 中学生?」
その手にはごみの入ったビニール袋があり、ここまで登ってきながらごみを拾っていたことがわかる。学生たちの中に、先生と思われる人を見つけ、その一団に近づいて声をかけてみた。
「あのボランティア活動ですか?」
その先生は若く筋肉質な先生だった。
「え? ああ、林間学校ですよ」
「え? そうなんですか?」
「はい。あれ? 聞いていませんでしたか? 今回は中高|《、》共同なんですよ。お互いの親睦を深めようってことで実施されてるんですけど」
「は、初耳です」
山岸の野郎……ちゃんと説明ぐらいしやがれ。
「あ、平野です」
「五十嵐です。今日はよろしく」
「こちらこそ」
握手まではしなかったけど、五十嵐先生はかなり友好的な先生だった。
とりあえず、この衝撃の事実を伝えてやらないと。
五十嵐先生に会釈をし、ぼくはとりあえず楽しげに話をしているリゼと灰谷のところへ走った。
「今日中学生も共同らしいぞ。さっき中学生の一団に会って、引率の先生と話してきた」
「え? そうなの?」
やっぱりぼくが聞いてなかったわけではないようだ。リゼも灰谷も、それなりに驚いた表情を見せた。
「さっきのドンパチ見られたか?」
「いや、見られてないと思う。さっき坂登ってきたばかりだしな」
「そりゃよかった」
ほう、と息をつく。確かにあまり目立ってもいいことなどないだろう。
だったらはじめからあんなことしなければいいのに。
というか、驚いた場所がそこだっていうことが地味にショックだ。
「ストレスの発散も大切なんだよ」
ま、確かに正体を隠し続けて生活するのにもストレスはかかるのだろうけど。でも火を吐くのはやりすぎだよな。
一歩間違えたら大惨事だし。
「あれ? そういえば夏樹はまだ戻ってないのか?」
ぼくもそれほど長い時間歩いていたわけではないけど、それにしても戻りが遅い。いつもの夏樹なら、すぐに飽きて戻ってくるのに。
「探してみよっか」
「そうだな」
「どうせすぐ戻ってくると思うがな。ま、オレはここで待ってるよ。あいつが戻ってきた時、だれもいなかったら驚くだろうしな」
体よくサボってるような気もするけど、灰谷の言っていることもまた正論なので、灰谷にはここに残ってもらうことにした。
「わたしは登ってきた道戻ってみるよ」
「ああ。そろそろ他のメンバーも来る頃だろうしな。迎えに行ってるのかもしれん」
そんなやつじゃないけど。
「ぼくは向こうのほうを探してみる」
さっき夏樹が歩いていった方向を指差す。
「うん。わかった」
「ほら、頑張れよ」
暢気に灰谷が手を振る。
とりあえず適当に探していたら出てくるだろう。
「ったく、あいつ何やってるんだよ」
ふらふらとどこかに行ってしまうことはよくあることだし、それ自体は決して悪いことじゃないんだけど、やっぱりこういうときは早めに帰ってきて欲しいものだ。無駄な心配をしてしまう。
とりあえず近場を探してみたけれど、夏樹は見つからなかった。
仕方がないのでリゼと合流するために、来た道を引き返す。そうすると、当然さっきの場所で待っている灰谷が見えるのだが、灰谷はなぜか厳しい眼差しをあさっての方向に向けていた。
「何かあったのかな?」
疑問に思ったものの、後から聞けばいいことだろうからまずリゼに合流することにする。
歩いているとすぐにリゼと会った。後ろからはクラスメイトたちが登ってきていて、その中に夏樹も混じっていた。
リゼに手を振って合図をし、ぼくは灰谷のところへ走る。
「夏樹見つかったよ。やっぱりみんなを迎えに行ってた」
灰谷は厳しい視線をその方向から外し、ぼくのほうに向き直る。
「あ、ああ。そうか」
「どうした?」
「いや、ちょっと寒気がな」
「ふぅん?」
ドラゴン特有の感覚なのかもしれない。ぼくはあまり追及することはしなかった。
「平野」
しかし、灰谷がぼくを呼ぶ声は厳しさが混じっていた。
「魔銃の準備しておけよ。オレの勘違いかもしれないが、どうも嫌な予感がする」
「あ、ああ」
夏樹には言っていないが、灰谷にはぼくが魔銃《虚構殺し(シグナルグリーン)》を持っていることをあらかじめ話している。それは彼女自身がこの魔銃に殺される存在であるからで、こういう武器があることを知ってほしかったからだ。そしてやっぱりこういうことは話しておくべきだろうと思ったからだ。
「…………だな」
灰谷が何かを呟いた。
「え?」
「いや、なんでもない」
久しぶりだな、ぼくにはそう言ったように聞えた。