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スクランブルワールド  作者: 人鳥
第二話 クラスメイトはドラゴン
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1

学校生活編(?)に突入です。

これで少しは学園というタグも嘘じゃなくなったかな、なんて思います。

 嘘のような週末が終わり、ぼくは今日も学校へとやってきた。いつもと同じ。ただし、違うことだってある。どこから漏れたのか、今日このクラスに編入生がいるということが噂になっているということだ。もちろん、その編入してくる人物がこの週末にぼくを非日常へと誘った人物――吸血鬼のリーゼ・ブリュスタンであることをぼくは知っている。

「どんな子なのかな?」

 おもちゃを与えられた子どものような顔で、細江さんが言う。

「さあ? 夏樹みたいな奴じゃないことを祈るよ」

 一応は知らないように装っておこうと思う。まだ本人も登場していないのに、彼女に対しての質問をされるのは嫌だったし、なによりも面倒くさい。

「それ酷いだろ……」

 夏樹が袖で涙を拭く仕草をする。

「気持ち悪いからやめろ」

「そういえばさ」

 すぐに泣くフリをやめて、夏樹が思案顔に鳴る。

「あのリゼって子、今はどうしてるんだ?」

 この馬鹿! こいつのタイミングの悪さは天下一品だ。

「誰? リゼって。外人さん?」

 当然のように細江さんがぼくに問いかける。

 誤魔化すことは不可能だし、ここで誤魔化せば後から面倒になるし、誤魔化しても無意味だった。そもそも誤魔化す理由がない。

 ただ、彼女が吸血鬼であることを打ち明けるかどうか、それが問題だった。リゼはきっとすぐにそれをバラすのだろうけれど。でも、ぼくからそれを人に話していいのか悩んでしまう。

「リーゼ・ブリュスタン。今日、このクラスに来る女の子」

 囁く程度の声量でそう教えてやる。

「ええっ!」

「ちょっとワケありで既に知り合ってるんだよ」

「そ、そうなんだ……。そ、そのワケってのは?」

「説明すると長くなるし、ぼくの口から言っていいものかもわからない。たぶんあいつに聞けばすぐに教えてもらえる。あんまり深刻な話でもないから」

 まあ、聞いたところですぐには信じられないような話なのだけど。

 あれ? けど、夏樹はすぐに信じたのだっけ。馬鹿だからかな?

 始業のチャイムが鳴り、HRが始まる。

「おいーっす。今日はこのクラスにやってきた新たな英雄を紹介しようと思う」

 英雄って……まるでこのクラスが問題児の集まりみたいだ。ぼくの知る限りでは、今のところ一人しかその定義には当てはまらない。

「喜べ男子ども。女の子だ。しかも外人さんだ。日本語ぺらぺらで、聞くところによると色々な国の言葉が話せるらしいぞ」

 おおっ、と歓声が上がる。

「あ、あと……」

 嫌な予感がする。このはっちゃけ教師、名を山岸が「あ、あと……」と言葉を続けるとき、必ず誰かが厄介な目に遭う。ぼくらの中では、この言葉が禁句となっているくらいだ。

 そして今回、その対象となるのがぼくであることは明白で……。夏樹と細江さんがぼくのほうを哀れみの目で見ていた。

「どうも平野とは既に知り合いなんだと。しかも、家庭の事情で同じ部屋に住んでるとか」

 よ、よけいなことを――っ! 誰が悪いってそれはリゼも悪いけれど、この山岸が悪い。どうしてそんなことをココで言う必要があるんだよぉぉぉ!

 気がつくと、クラスメイトたちからの視線がぼくに集中していた。なんか色々と言われている。筆箱が飛んできた。教科書が飛んできた。色々飛んできた。

「あー、じゃ、入ってきて」

 教室に現在進行形で嵐が存在する中、山岸は『新たな英雄』を教室に招いた。

 ドアが開き、颯爽とリゼが教室に現われる。

 飛来物が止んだ。

「リーゼ・ブリュスタン。吸血鬼でっす。よろしく!」

 教室がざわつく。それは先ほどまでのような雰囲気ではなく、リゼの発言に対するざわつきだった。

「吸血鬼?」

 クラスの誰かが呟く。

「うん、そうだよ。あ、でもね、心配しなくても人の血なんて吸わないから」

 ほう、と安堵の声。

 どうしてこいつらはただその一言だけ安堵できるんだ? もしかしたらそれが嘘で、ぼくたちを油断させるための罠でしかないとはどうして考えないんだ? まあ、吸わないから問題はないのだけど。

「吸血鬼?」

 違う誰かが呟いた。

「そうだよ」

 にこやかにリゼが応える。

「ふうん? あんたが」

「え? あ、うん」

 妙な空気が流れ始める。なんか文句あるのか? そんな雰囲気がリゼからではなく、クラスメイトから発せられる。主に男子から。女子からも、「感じ悪い」とか、そういう声が聞えてくる。その言葉が向けられたのは灰谷琴音という、男勝りな性格の女子だった。

 灰谷はクラスに流れ始めた空気に気づいたのか、ゆっくりと首を振った。

「いや、気にしないでくれ。オレの悪い癖だ」

「え? うん」

「じゃあ……そういえば、なんて呼べばいい?」

「リゼでいいですよ、先生」

 ちゃんとしろよー、とか、そんな声が生徒から飛ばされる。

「じゃあ、リゼさん。席は平野の隣に。机と椅子はあとから持ってくる。平野が」

「何でだよ!」

「じゃあ、解散」

 HRは終了した。

 リゼがぼくの隣まで移動するのを待って、一斉にクラスメイトが行動を開始する。目的は当然リゼだ。

「じゃ、じゃあ、ぼくは君の机と椅子、持ってくるから」

 クラスメイトの波をかき分け、怒涛の如く襲ってくるであろう質問の嵐から逃れるためにその場を後にする。もしかしたら机と椅子を持ってくる役割を与えたのはこのためかもしれない、と一瞬思ったけれど、絶対にそれはないと思い直した。山岸がそんなことを思うはずがないのだ。

「タクー、ちょっと待ってよ」

「あ?」

「手伝うよ。わたしの席なんだから」

 じろり、とクラスメイトの視線がぼくにまとわりつく。

 イジメじゃないだろうか。

「あ、いや、ぼくだけで大丈夫。ほら、みんなと話してろ」

「でもー、あ、そうだ」

 そう言ってリゼはその場で跳躍し、天井を蹴ってぼくの前に降り立った。教室に残っていた半分以上のクラスメイトが、呆然とリゼを見ていた。

「さ、ほらほら」

 リゼに背中を押され、ぼくはやっと教室を後にした。

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