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1999年10月 福岡県遠賀郡水巻町

 私が、弓彦がバイトするコンビニへ穴生と冷やかしに行ったのは、京都旅行から帰ってきて一ケ月後のことだった。


 結局泰彦は留年が決まった。大学の寮も引き払った。留年の費用を親に負担してもらうことになったため実家とコンビニから離れられなくなったという。


 その間、世間は大騒ぎだった。


 某政権与党の大臣クラスの幹部が大阪・岸和田にある建築業・松崎土木と国広建設から多額の違法献金を受け、高額の公共事業をあっせんされていたことが判明。そこの会社社長は贈収賄容疑で逮捕され、議員も数人起訴された。


 しかも逮捕された会社幹部と起訴された議員は右翼とも仲が良かったらしく、全国で軍歌を流しまくっていた日本青年社との関連性が某週刊誌にすっぱ抜かれ、一大疑獄となったのである。


 オスプレイ問題で世間が揺れていた最中である。ただでさえ勢いの良い炎にさらにガソリンをぶちまけた形である。閣僚経験者から現閣僚まで軒並み逮捕された。内閣総辞職は免れないだろう、そんな風潮になっていた。世間では『だんじり疑獄』と揶揄されたが、違法献金をしていた会社が岸和田の会社だったというだけの話である。岸和田イコールだんじりというそれだけの安直なネーミングだったが、世間にはそれで定着してしまった。だんじり好きには肩身の狭いネーミングであろう。


 ちなみに穴生によると、弓彦の初恋の人・草壁葉菜子さんは無事福岡市内の大手某バス会社の事務として採用が決まったらしい。両親はこれも日々少林寺拳法をやったおかげだと泣いて喜んだという。


 そんな世間の話題はどうでもよいとして、脱サラして1年、完成して間もないというピカピカの店で、弓彦と川岸はなぜか同じコスチュームを着て働いていた。レジでぼんやりしていた川岸に私が尋ねた。


「川岸君、えらい新しいね。本当にオープン1周年なんですか?」

「リニューアルオープンなんですよ」

「リニューアル?そんなリニューアルするほど一年でコンビニは古くなるんですか?」

「よくわかんないけどそうなんじゃないですか?いらっしゃいませ」


 川岸は隣でダラダラ話しかける私を邪魔とも思っておらず客の応対をする。私は完全に営業妨害である。一方、弓彦は穴生とずっと話しており、全く仕事をする気配がない。どうやら宗右衛門横丁の一件を聞き出そうとしているようだが、泰彦ははぐらかすだけである。


 川岸が言うには、一時期、右翼・日本青年社の街宣車に駐車場を占拠され、毎日大音量で軍歌を流され客やバイトが激減していたようだが、それが急にいなくなったと同時にリニューアルオープンして客やバイトが戻ってきたらしい。


 『急に』という言葉が怪しいので聞いてみると、本人の回答も要領を得ない。気が付いたらリニューアルオープンしていたのだそうだ。


 周辺住民に話を聞くと、更地になったコンビニ跡を弓彦とそのお父さんがとぼとぼ歩いていたとか、街宣車とオスプレイが並んでいたとか、街宣車が空を飛んでいたとか、いつものバイト君が空を飛んでいたとか、怪情報が多数でこれまた要領を得ない。何を聞いてもあやふやなままだった。


 穴生が聞く。

「あら、あの変な中国人バイトいなかった?」

「中国人?そんなのいたってもんよ?」

「ご了承ください、って変な言葉付ける人」

「おいって、そんなのいなかったってもんよ」


 何も買わずにただ無駄話を続ける私たちは営業妨害なのだが、そんな最中に店長である弓彦の父さんが事務所から出てきた。


「おお、穴生君と弓彦の友達君じゃないか。今日もいい天気だなぁ」


 弓彦の父さんはそういうと、空のない店の天井を見つめた。



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