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月の夜に獣は笑う  作者: 綺羅
第1章
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2

 ーゲームセンター『グラナダ』ー

「んぁ?留架が?」

 ジュースのカップ片手に眉を顰める浅都。

「間違いねーって、救急車ん中に陽介いたし。昨日の騒ぎの原因、あいつ」

「ケッ、犬っころと喧嘩かよ」

「他の被害者よりは軽症だって、一晩入院したけど退院したって」

 不機嫌そうに投げたカップはダストボックスの中。

「俺帰る」

 一緒にいた仲間は何も言わずに見送った。

(触らぬ浅都に祟りなし)

 などと仲間たちが思ったのはここだけの話。

 そんなことを思われているとは知らない浅都は、家に帰るために裏道を抜ける。

 いつもはちらほらと通る人影も今はなく、浅都の足音だけが響く。


 そんな中、微かに響く唸り声と獣の足音。

 声の方をチラリと見れば、黒く獰猛な野犬の姿。

「留架の次は、俺かい…」

 自然と口元に浮かぶ笑みはどこか不敵なもので。

「ちょうどいい、イライラしてたんだ。遊ぼうぜ」

 ペロリと舌なめずりする様は、肉食獣さながらだった。


 ゆっくりと、浅都に近づいてくる野犬。

「……」

 睨みつけながら、浅都も距離を詰める。


 トクン……


 感じる、血のざわめき

(なんだ、この感じ……)


 刹那、右肩に感じる痛みと熱。

「……!」

 一瞬の隙をつかれ、右肩に喰らいつかれた。

『調子乗んなよ、ボケ!』

 叫び、犬を肩に喰らいつかせたまま、壁に体当たり。

 犬を壁と自身の体でサンドイッチ。

 自身の声が言葉になっていなかったことに気づいていない。

 頭に血がのぼって、白い霧がかかったように考えがまとまらない。

 ぐったりとなった犬を右手で吊るし、殴りつける。


 何度も、何度も…


 薄ら笑いを浮かべ、何度も何度も…

「浅都!」

 聞こえる陽介の声。

 左手を掴まれ、意識が鮮明になる。

「陽介?」

「…ああ」

 陽介は朝との意識が自分に向いたのを確認すると、ほっと息をつく。

 浅都はというと、さっきまでの様相が嘘のように、オドオドと辺りを見回す。

 逃げる元気は残っていたらしく、犬の姿はない。

「場所変えるぞ、大事な話がある」



 ーホームー

 はい、血まみれ浅都を保護しました、陽介です。

 留架が退院して大丈夫だってんで、浅都と落ち合って話そうと探したら、血まみれを発見しました。

 なんで、俺の周りのヤツって怪我ばっかすんの?

 とりあえず、精神的にもヤバかろうなんで、ホームに連れてきた。

 保健室あるから、応急処置できるし。

 医者は浅都に状況把握させてからだ。

 とりあえず、怪我の手当を師叔にしてもらって、俺と留架が使ってた部屋がまだ開いてたから、許可もらって案内。ソファに座らせて、お茶を用意。

 とりあえず、手当とお茶で落ち着いたか?

「……俺、あそこまでするつもりなかった」

「だろうな、明らか暴走してたもんな」

 うんうん、感情が暴走するとそんなもんです。

「そんなアッサリ………」

 アッサリ納得してる俺のことも理解の範疇外らしい。

「今日話そうと思った内容にも関係あるからなぁ……。これから見ること聞くことに対して、驚いても良いけど目で見たものをそのまま信じる口外しないと約束できるか?」

 俺の言葉に頷く。

「オーケー。じゃあ、目を閉じて。イメージしてみろ。獣、小さく。小さな獣が心の中にいる。」

「獣、小さく………」

「そう。感じたはずだ、血のざわめきを。さっきは止めたけど、ここでなら大丈夫。」

「血のざわめき……」

「そう、獣、小さく、血のざわめきに身を任せる。意識をとばすなよ?飼い慣らせ」

 瞬間、俺の目の前から浅都の姿が消え、浅都の服がソファにあるだけ。

「……くま?」

 モゾモゾと服の中から出てきたのは、ぬいぐるみのような小さいクマだった。


  ポカンとしているクマ、もとい浅都を宥めつつ説明すること一時間。

 どうやら、納得してくれたらしい。

「兄貴も、人獣?」

「いや、浅都が変異種なだけ。人獣なのは俺」

 まあ、留架は自分で言うっしょ。

 てなわけで、右手を豹のに変えて、浅都の頭をワシワシと撫でる。

「力をコントロールしたら、部分的にも変えれる。俺は豹だ」

「うーん、今一実感ねー。まあ、だからって別に変わるもんでもねーし…いっか」

 順応早すぎじゃね?

 俺の表情を見て撮ったのだろう、浅都はニンマリ笑って言った。

「俺の得意技、開き直り。で、あの犬っころどうしよっか?」

 左手も豹に変えて、両手で浅都の頭をグニグニといじった。

 俺悪くない。

「留架と合流するぞ、付き合え」


               To be next



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