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快晴を呼ぶ勇者

「俺は晴生、君の名前は?」

 まだ幼い魔術師と自己紹介を済ませていなかったため、晴生は爽やかに彼女の名前を聞いた。

「アンジー」

「アンジー、よろしく」

 笑顔で晴生が手を差し出すと、アンジーはおずおずと幼くてまだ小さな手を差し出し、晴生がぎゅっと握った。ほんのりとアンジーの頬が染まっていく。

 パッと手を離し、

「雨の魔女のことだけど、アンジーは何か知っていたりするの?」

「あの人は…………」

 アンジーが言いかけた時、彼女がばっと扉を睨み、

「来る」

 人差し指を自身の唇に当て、黙るように促した。

 すると間もなく扉の向こうから足音が聞こえ、その主が扉を開いてやってきた。

「もう朝食を済ませたのか。もっとゆっくり女達と戯れて良かったのに」

 卑猥な発言と共に国王ターニーがスッキリとした顔立ちで上機嫌に入室し、上座へどかっと深く座った。


 これ以上女性たちを差し出されなくないと思った晴生はふと以前茜が結に対してしつこい異性を一蹴する魔法の言葉を教えていたのを思い出した。


「陛下、実は俺は“女性には”興味が無いのです!」


 気まずい間。

 これでクソ王に相手になってやるとでも言われたらどうしようかとも思ったが、

「そうか。異世界の文化とやらか」

 まるで“俺を対象にするなよ”とでも言ってるかのような眼差しで距離を置かれた。安心しろ、俺の恋愛対象は女性だし、同性だとしてもお前のようなクソジジイを好きにはならん、と晴生は笑顔を繕いながら心の中で啖呵を切っていた。 


 待て、この設定使えるか……?


 晴生は閃き、会話を続けた。

「仰る通り、文化の違いですね。貴国は女性を愛でる文化のようですが、同性愛を認めているような他の国はこの世界にはあるのですか?」

「ああ、隣の国がそうだ」

 まるで気持ち悪い国だとでも言っているかのようにターニーは小馬鹿にした態度を見せた。

「雨の魔女を退治する前に亡命なんかするなよ」

「まさか。仮に逃げたとしてもまた魔術師の彼女たちに引き戻されてしまいますよ」

 アンジーは少し眉をぴくっと動かした。

「それに」

 本当は言いたくなんか無いが仕方がない、晴生は自身を役者だと思い込ませた。

「今は、国王様が良いです♡」

 再び気まずい間。

 ターニーは立ち上がり、明らかに怪訝そうな顔をして

「異世界の勇者は奇人変人だな」

 と捨て台詞を吐いてそそくさと食堂を出たのであった。


 はぁ〜と晴生が深くため息を吐くと、壁際に立っていたアンジーまでもが白い目で晴生を見ていた。

「違うよ違う!! ああすればあのオッサンがしつこく関わってくることもないかなと思ったから!!」

「なるほど。策士ですね」

 アンジーは理解をすると、再び晴生に近付いた。

「ねぇアンジー、同性愛を認めている国ってここから近いの?」

「隣国は1つしかないのですが、近いと言えば近いです。ただ、同性愛を認めているのかは知りませんが」

 他国の情報を自国に流さないのか、と晴生は心の中で呟いた。

「どうして同性愛にそんなにこだわっているんですか?」

「恋愛の自由は生き方の自由だ。それを認めている国なら人権が存在している可能性が高い」

 晴生が何かを決意したようにはっきりと言うと、アンジーは紫の目を見開き

「生き方の自由………」

 羨望の呟きを漏らした。

「隣国にはどうやって行けるかわかる?」

 晴生が聞くとアンジーは眉間にしわを寄せ、


「雨の魔女が居る山を越えるしかないです」


 静かにそう言うと、晴生も腕組みをしてどうしようかと悩んだ。


 雨の魔女が善人であることを強く望むのだった。




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