晴れた修学旅行
魔女の力は13歳になると覚醒をする。
炎を操り魔物に立ち向かう少女もいれば、物作りの呪文を唱えて人々の生活に役立てる少女も在る。
13歳になって、ママに叱られて泣いた。
大雨が降った。
必死に笑おうとした。
誰も笑ってくれなかった。
知らない人にどこかに連れて行かれそうになって泣き喚いた。
大洪水が起きた。
山奥で独りしくしくと涙を幾日も流した。
どこかで崖が崩れ落ちた。
私は泣いてはいけない。
感情を押し殺して、ひっそりと生きていくしかない。
「いやぁ、絶好の修学旅行日和ですなぁ!」
石段を上がったり、山道を登ったりとこの修学旅行生の高校生たちは体力的にへばっていたが、ただ一人、日向晴生だけは意気揚々としていた。
山の天気は変わりやすい、と聞くが彼らの道中は仕切りなしに晴れ、快晴、晴天。頂上に近付くとさらにギラギラとした初夏の陽の光をダイレクトに受ける。
「絶対日向のせいでしょ!」
後ろから晴生に文句を言うのは、彼とは小学生から縁のある小林茜。
「ここまで………晴れ男の能力を持ってるとは……はぁ…はぁ…思っていなかったよ」
ぜぇぜぇと息を切らして言ったのは、中森雅博。
「え、何々? 晴れ男って?」
汗をハンドタオルで拭いながら話に便乗をするのは茜の友人、広岡結。
「ごめんなさいねぇ、晴れ男なもんで!」
「絶対反省してないでしょ!」
「日向君、晴れ男なの?」
「そうよ! こいつってば昔っから………っ!!!」
日向晴生は自他共に認める晴れ男。
物心付いた頃から家族旅行や遠足、運動会、入学式、卒業式、水泳の授業、などといった晴れて欲しいと願う日には必ず雨とは無縁。他にも、突発的に前日に遊園地に誘われ、流石に雨予報だったからと折り畳み傘を用意したとしても、晴れとはいかないが曇りに留まる。
「何かとイベントの時にピンカン晴れにすんのよ! 体育祭とか日焼けがマジしんどくなるのこいつのせい!」
「日焼け止め塗っとけば良いだろ」
「塗ってるわよ! 塗っても焼けるのよ! あんたが晴らすと!」
先頭で言い合いながら登っていく二人を見て雅博と結は「元気だなぁ」と内心呟いた。
「お、雅博〜! 残り50メートルだって!」
道中にある木製の立て看板を晴生が見つけ、後ろからゆっくりと登る雅博に大声で伝えた。
彼らが目指す先は、頂上にある謎の神社。
修学旅行の自由行動を決める際、神社仏閣巡り好きの雅博が
「ここ、行ってみない…………!?」
航空写真のGoogleマップを見せて提案をした。
「何これ、山ぁ?」
明らかに嫌そうな顔を見せる茜。
「ここここ、ほら見てよ。鳥居があるだろ、神社があるんだ」
「有名な神社なの?」
結に聞かれると雅博は増々興奮した様子でプレゼンテーションを始めた。
「真逆! 通常モードのマップに戻すと、ほら、神社の表示は無いんだよ! 航空写真でタップしても無反応。人に知られない正に神秘的なスポットだと思うだろ!?」
「えぇ〜、単なる廃墟なんじゃないのぉ?」
「と思うだろ!? ズームして見るとさ…………」
雅博がマップを指で広げて拡大をすると、山頂の神社は廃れた様子も無く、境内らしき敷地内には掃き掃除をしている神社の職員らしき人物が一人写っていた。
「おぉ〜〜〜!!」
「だろっ!? だろっ!? 地図に無い神社! そんなに標高が高い山でも無さそうだし、行ってみようよ!」
そして今に至る。
山道に入ると途中途中に立て看板があり、頂上までの道を示してくれ、歩き始めの頃は見つけるたびに皆歓喜の声を上げて興奮したが、山修行かとも思える体力を削られる登山に次第に立て看板を見つけても然程喜ばなくなった。
恐らくこれが最後の看板。
「鳥居だ!!」
木々に隠れた先にある石造りの鳥居を見つけ、雅博の目に生命力が戻り、どこにそんな体力を残していたのかまさか走ってラストスパートをかけたのだった。晴生と茜をあっという間に追い越していく。
「やっとゴール?」
それでも茜と結は走らず歩いて登っていく。
「雅博ぉ、転ぶなよ〜!!」
晴生は小走りで雅博の後を追うと、雅博は鳥居の手前で立っていた。
《雨天神社》
鳥居の手前にある石碑にそう彫られていた。
「うてん神社………?」
晴生が小声で呟くと、
「雨天神社へようこそ」
静かに石畳を擦らして歩きながら、あの写真で見かけた人物が出迎えた。白衣に白い袴姿で、歳は20代だろうか、髪は肩より短いくらいで見た目も声質も中性的。
すると、雲の無い空から小雨が落ちてきた。
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こちらは短めの連載作品です。
短編だと長過ぎるかなと感じたので連載にさせていただきました。
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