ビジネスパートナー
ドワーフ達の工房を後にしたカイン一行は、それから他の施設や農場に足を運び下見を済ませた
その度々で英雄扱いを受けたカインは疲れて切っていた
「もういいよ…帰りたい…」
「あと少し我慢してくれ お前の顔を売ってやってるんだこれもお前のためを思ってだな…」
「はぁ…まぁ…今後の商売のためになるだろうから我慢するが、そろそろ蕁麻疹が出そうだ…」
「見て!こんなにお土産貰っちゃったわよ!英雄様々ね!」
「もう乗り切らないです…」
エマとフューイの膝には沢山の食料品や工芸品が積まれていた
「疲れたな…そろそろ昼食にしようか」
サタンはセバスチャンに飲食店があるエリアに向かわせると、車を降りた
「ここか?なんか普通だな」
場末の酒場のような大衆感溢れる小汚い店だった
「あぁ近い場所だとここくらいしか店がないからな 他の労働者も居るけど我慢してくれ」
「ふーん…なんかここに来て初めて普通の店に入ったな…」
「そうね…今までが綺麗すぎたのよ」
「ですね…」
一行は少しテンション低めに店に入り辺りを見渡した
店は混んでおりガヤガヤと賑わっていた
客は総じて土や油で汚れていたが、皆楽しそうに仲間と昼休憩を満喫していた
「…おい見ろよ…」
「ん?何だあいつ…」
数人の人間がコチラを見ながらヒソヒソと話している
「あ、あれは!サタン様じゃないか!」
サタンに気がついた1人の獣人が叫んだ
「サタン様だ!サタン様がいらっしゃったぞ!」
魔族達は急いで身なりを整えて立ち上がった
「おいおいそんなに畏まらんでも…」
「いえ!そう言うわけにはいかんですよ!是非相席させて下さい!」
「ささ、どうぞ」
大きなテーブルには獣人2人、リザードマン1人、半人らしき男1人、そして人間が3人いた
「せっかくだし席も空いてないから座ろうぜ」
長椅子を詰めて貰うと5人座ることができた
「どうだ?調子は ここの生活には慣れたか?」
「はいお陰様で…俺たちには故郷も身寄りがないもんで家と仕事場を頂けて満足してます」
周りの魔族達はうんうんと頷いた
「そうか それは良かった 何が要望があったらいつでも相談窓口に相談してくれ こう見えてもここの住人の要望には全て目を通してるからな!」
「サタン様…ありがとうございます」
「あ、この前の安全装置の件も取り合ってくれてありがとうございます!お陰で怪我するやつが減りました!」
「あぁあの件か!いいんだよこちらの設計ミスだったんだから 少しでも気になったら言ってくれ直ぐに対処させる」
「分かりました!」
(へぇ…良い上司じゃないか こう見えても仕事はしっかりやってんだな…)
いつになくサタンの出来る一面を見たカインは感心していた
「そうだそちらの方々は…」
「あぁ紹介がまだだったな このちっこいのがカイン・シュルツ 魔族連合の新しい幹部だ」
男達は目を丸くしてカインをまじまじと見つめた
「はっはっはっサタン様も冗談がお上手で… で?何です?隠し子ですかい?…」
「「ハハハ!」」
周りの男達も新手のジョークかと思ったのか大笑いしていた
カインは少しイラっと来たがまともに取り合うのも馬鹿らしいので涼しい顔をしてジョッキの湯冷しの水を飲んだ
「ハハハ違う違う本当だよ お前らの命の恩人でもあるぞ」
サタンは変わらない調子でいなした
「ハハハ…は?それはどう言う…」
笑っていた男達は調子を変えて顔を見合わせた
「コイツはお前達をブーフェルトから解放した作戦の指揮官だ 礼を言った方がいいぞ」
サタンは真剣な顔で男達の目を見た
「「「…えええ!?」」」
「な、何だって!?」
「こ、この子供が!?」
一気に店中が驚きの声に溢れた
「…またこのパターンか…」
そろそろ慣れてきたカインは眉間に手を当てた
「おい!本当なのか!そいつが俺たちを助けたってヤツは!」
遠くの席にいた1人の人間の男が立ち上がり大声で聞いてきた
「うおっ…ビックリした…」
「あ、ジルドあんたもいたのか」
相席してた獣人の1人は顔見知りだったようだ
「…!ジルドって…まさか!!」
エマは突然立ち上がり男を振り返った
「あん?何だ嬢ちゃん 俺になんか用か?ブッ…!!」
エマは人混みをかき分けると男に向かって突然殴りかかった
「やっぱりアンタだったのね!!よくも…!!」
「おいエマ!!どうした!!止めろ…うわっ」
尋常じゃない様子のエマを制止しようと腰のベルトを掴んだが物凄い勢いで引っ張られ地面に引き摺られてしまった
「…!何だコラァ!!女だろうと容赦しねぇぞ!!」
顔を殴られて激昂するジルドに構わず、ノーリから貰った短剣を抜こうとしたところをサタンに止められた
「止めろ!!エマ!!騒ぎを起こすな!!」
「離しなさいよ!!義父さんの仇…なんだから…!!」
サタンに、はがいじめにさせられていたエマは暴れつつもポロポロと涙を流し始めた
「おい小娘!!ボスに怪我させたなんてどうなるか分かってんだろうな!!」
「ぶっ殺してやる!!」
柄の悪そうな男達がジルドの前に立つとエマにナイフを突きつけた
「痛てて…義父さん…?どう言うことだ?」
脇腹をさすりながら立ち上がったカインはエマに問いかけた
「そいつは…!そいつはあたしの義父さんを…クルフェ義父さんを殺したのよ!!」
憎しみに顔を歪ませながら暴れるエマを何とか抑えていたサタンは察した
(なるほど…そう言うことか…)
「…クルフェ…あぁあの懐かしのエルフか…思い出したぜ…あの野郎の娘か?そりゃ残念だったな
アイツは裏切り者だ 殺されて当然だろうがよ!」
ペッと血が混じった唾を床に吐き捨てるとエマを睨みつけた
「…!許さない…許さない…絶対に殺してやる!!」
「おい!落ち着け!暴れるな!セデーション!」
サタンはエマに沈静化させる魔法をかけると一気に大人しくなり、脱力して眠ってしまった
(あの顔……そうか思い出したぞ…最初にエマと会った時に見せてきた懸賞首だ…)
「ジルドさんウチの者がすまなかった 俺はカインだ 良ければ話を聞きたい」
ジルドはカインを頭から爪先までジロリと見た
「…はんっ!お前みたいなガキに謝られても何とも思わんわ!…まぁコッチも聞きてぇことがあるから今回だけは特別に見逃してやる…お前ら!手を出すな!」
「へ、へぇ…」
一喝すると臨戦体制だった下っ端達は後ろに引き下がった
「場所を変えよう ここだと人目につく…
セバスチャン、フューイ、すまないがエマを頼んだ サタンは付いてきてくれ」
「…分かった」
ジルドと店を出たカインとサタンは建物の横の薄暗い路地に入った
「まず俺からだ そこの坊主が俺たちを助けたってのは本当なのか?」
疑いの眼差しをサタンとカインに向けた
「本当だ このサタンが保障する なんならコイツの力を見せてやろうか?」
「おいサタン余計なこと言うな!」
「黙ってろ!何でもいいから能力を見せてやれ この手の奴はその方が話が早い」
「…全く…分かったよやればいいんだろやれば… ジルドさんだっけ?あんたが今思い浮かべたものを言ってくれ」
「思い浮かべたもの?…リンゴだ」
「分かった」
手のひらを突き出すと白く輝き中から熟れたリンゴが出現した
「…!何だこりゃ…何かの手品か?」
リンゴを手に取ると匂いを嗅いだり齧ったりして本物か確かめている
「こりゃ本物だ…他にもなんか出せるのか?」
「あぁ何でも出せる タネはないぞ」
しばらくリンゴを眺めていたジルドは思いついたとばかりにニヤニヤとしだした
「ほほぅ…タネがないねぇ…そうだな…俺の等身大の純金の像なんてどうだ?
手品じゃねぇなら出せるはずだよなぁ?」
(はぁ…まだ疑ってんのか…何が悲しくて汚ねぇオッサンの像なんて出さなきゃいけないんだよ…)
「…分かったちょっと退いてろ」
ジルドが下がると地面から白い光が昇り、中から眩しく輝く汚っさんの金の像が現れた
「こ、こりゃ…こりゃスゲェ……」
度肝を抜かれたジルドはベタベタと像を触り、すかさず目立たない脚部の表面を落ちてた石で引っ掻いた
「ほ、本物だ…本物の金だぁ…す、スゲェ…お、おいコレ!メッキってことは無いよなぁ!?」
「あぁ中から外まで100%の24金だ お前にやるよ」
「い、いいのか!?さすがカイン様!!太っ腹だねぇ!」
「様って…その代わりそのまま売るなよ 金のレートが下がるからな」
「売るか!!コレは俺の家に持って帰って飾るんだからな!!」
「好きにしてくれ…それで?なんか言うことないか?」
「あぁ!疑ってすまなかった!それに俺と仲間を助けてくれてありがとな!
俺はジルド・バランだ!ちと運送業をやっててな…」
「待て、お前はただの運送業者には見えないが?確か人間領で懸賞金が掛かってたよな?」
「……ま、今更嘘ついてもしゃーねぇか…
ロアル・カルテルの頭領だ 知ってんだろ?」
「ロアル!?お前があのカルテルのボスだったのか…」
黙っていたサタンは驚いてジルドを睨みつけた
「サタン、何か知ってるのか?」
「あぁロアル・カルテルは人間領でも最大勢力を誇っていた麻薬カルテルだ 数年前に壊滅したとは聞いたが、まさかブーフェルトに大ボスがいたとはな…」
「お、おい待てよ ここの住民は全員お前の部下があらかた過去の経歴を洗ったんじゃなかったのか?何でお前が知らないんだ」
ブーフェルトの捕虜達は一度全てを見透かす能力を持つ悪魔であるイビルアイに全ての経歴を押さえられているはずだった
そんな危険人物が居たのであればサタンが知らないはずがない
「あぁあのやたら目力の強いねーちゃんの取り調べか 胸ばっかりに目がいっちまって記憶が吹き飛んじまったのかもな ハハハ」
豪快に笑うジルドをサタンは睨みつけた
「ふざけやがって……これ以上話しても仕方ない…お前はマークさせて貰う ここで何か起こしたら然るべき処罰をするから覚悟しておけ… カイン、何か聞きたいことは無いか?」
苛立ちを隠せないサタンはカインに話を振った
「あ、あぁ…エマの親父について知ってることを教えてもらおうか」
表情を曇らせたジルドは渋々と言った感じでポツポツと話をし始めた
「エマ…あの小娘か…けっ!仕方ねぇな…
クルフェは俺の組織の運び屋だったんだよ
それも凄腕のな… 引き入れたのもこの俺だ… 村を追い出されて路頭に迷ってた所を面倒を見てやったのに
ある日突然、金とブツを抱えたまんま姿を眩ましやがったんだ…
部下に探させたんだが中々見つからなくてな
ようやくアントワープで見つけた時は変装してガキ抱えて逃げ回ってたんで、先回りして捕まえさせたんだ…
俺の前で命乞いしてきたんだがな…掟は掟だ
ガキが見てる目の前で首を刎ねてやったのさ… まさかアイツがそのガキだったとはね…」
「………」
「………」
カインとサタンは沈黙していた
「俺たちの世界では掟が全てだ 誰だろうが裏切りは死を意味する 例えそれが育ての子だったとしてもな…」
暗い表情で語るジルドは何処となく哀愁が漂っていた
「…事情は分かった…話してくれて感謝するよ」
カインは表情を変えずに礼をしたが、それを見たジルドは腕を組み片目だけでカインを見つめた
「ほぉ…何とも思わんか?アンタくらい正義感が強そうな奴なら掴みかかってくるもんだと思ってたんだがな…」
「…申し訳ないが俺は正義の味方じゃないし、そんな事で激昂するほど短気じゃないもんでな お前達を助けたのは正義感からじゃない たまたまだ」
「…ふっ…ハハハ!そうかい!見た目に騙されたら痛い目みるなこりゃ… それでアンタ…何者だ?」
おだけた調子から一転、真に迫る口調で問いかけた
「…俺か?ただの商人さ アンタと同じ指名手配犯で、カイン商店の元店主だ」
ジルドは目を丸くすると大笑いした
「ガハハハ!冗談きついぜ!アンタがあのカイン商店の店主で指名手配犯だって?…ん?待てよアンタの名前は…」
「カインだ カイン・シュルツだ」
「……マジか…まさかあのメイドは…」
(メイド…?コイツもメイドロイドを買ってたのか…)
「そうだ 居ただろ?俺の横に銀髪のオッサンが アイツも同じメイドロイドだ」
「……そ、そうだったのか!アンタがあの店の店主だったのか!!
ありゃあスゲェ商品だった!もちろん他の奴もな!俺もアンタの店で物買ったりオーダーメイドを依頼したりしたんだぞ!知らないのか!?」
急に距離を詰めてきたジルドはカインの手を取った
「うっ…落ち着け!すまんが記憶にない!あいにく顧客リストは部下に管理させてるもんでな…」
「そうか…一度会ってみたかったんだよ あんな見たこともねぇ素晴らしい商品を作ってる奴に 俺たちの組織に欲しくてな… どうだ?俺の組織に入らないか?報酬は弾むぞ!」
興奮したジルドの目は血走っていた
「いや、お断りします…」
あまりの迫力と口臭にドン引きしたカインはそのまま後退りしてしまった
「かぁ〜!釣れねぇなぁ!ま、その気になったら是非俺に言ってくれ!歓迎するぜ!!俺はこの近所に住んでる住所は…これだ!何かあったらいつでも来てくれよ!あ、日中は作業があるから5時以降に頼むぞ!」
ポケットから取り出した木札を手渡した
「そ、そうか…前向きに検討しとこうかな……ん?作業って何してるんだ?」
カルテルのボスが肉体労働していることに疑問を感じたカインは率直に聞いてみた
「あぁ薬草の栽培さ…とびきり上等のな…イデッ!」
ニヤリと笑ったジルドの頭をサタンが叩いた
「おい!人の畑で何作ってんだこの野郎!!」
「イテテ…おいおい誤解も良いとこだぜ魔王様よぉ 俺はただアンタの指定した薬草を栽培してるだけだぜ?人を見た目で判断しないことだな!」
「やかましいわ!!」
「その辺にしとけ…」
カインはめくじらを立てたサタンを呆れながら諫めた
「それじゃあお開きと行くか…ヨイショ…ん?ンググ…」
純金の像はあまりにも重くびくともしないようで全く動かなかった
「…仕方ねぇな…フロート!そして、バインド!」
カインは能力を使って台車と縄、厚手の布を出すと魔法で像を浮かせて像を布で包み縄で縛り台車に乗せた
「おお!至れり尽くせりだな!それじゃ!いつでも来てくれよ!じゃあな!」
ジルドは台車を押しながら店の前に行き部下を呼び止めるとそのまま帰っていった
「嵐みたいな奴だったな…」
「そうだな…」
「あとアイツに風呂に入るよう伝えてくれ」
「…断る」
見送った後店に入ったカインとサタンは眠ってしまったエマを抱えたセバスチャンとフューイを呼んで車に戻った
「まだ2時だが…この調子だと今日はもう無理そうだな 帰ろうか」
「そうですね…」
フューイは心配そうにエマの寝顔を見つめた
「えぇ…エマ様が心配です…」
「…それじゃあ帰るか 待ってろ」
サタンは転送魔法を発動し、一行は光に包まれたのだった……