疑惑と確信
ルルが退職してからというもの新たにナニー(ベビーシッター)を雇ってはすぐに辞めてしまうという事態を繰り返していた
カインのことを説明しても信じてくれる者は中々おらず、怖がってしまいそのうち辞めて行ってしまうのだ
なんとかマリアの体調も戻ってからは以前と比べればナニーはそこまで必要ないほどにはなっていた
と言うのも育児でありがちな手を焼く事がほとんど無かったのだ
しかし、次々とナニーに辞めていかれるのには頭を悩ませていた
そうこうしている間に数ヶ月が経つと今度はいつの間にか魔法を覚えていた
「あ、あの!奥さま…その坊っちゃまが…」
何人目かに雇ったクレアという中年のナニーは焦った様子でマリアを呼びにきた
「…どうかしたのかしら?」
「そ、その…とにかく見てください!」
クレアに子供部屋連れていかれるとカインがちょこんと座っていた
「カインちゃんもう一回やってみて」
少し嫌そうな顔をしたが渋々と言った感じで小さな指を突き出した
するとその指の先から水が飛び出し、部屋の壁にあたった
「凄いわ!クレアさんが教えてくれたの?」
「い、いいえ!私は何も教えてなんて…ただこの絵本を読んであげてただけです」
クレアは床の絵本を取ると見せた
「前に蚕市で買ってきた魔法使いの絵本ね…まさか本当に魔法を使うなんて…」
「は、はい…私は魔法なんて使えないものですから…一体どうやったのか…」
困惑するクレアをよそにマリアは目を輝かせていた
その晩、ハンスとマリアがカインを囲んでいた
「ほらカイン、ちょっとで良いからパパに見せてくれないか?」
見せ物じゃないと言う感じでプイッと顔を背けて聞かなかった
「も〜ママの時はやってくれたのに〜パパが可哀想よ?」
「…」
仕方がないと言った様子でカインはハンスの顔目掛けて水魔法を放った
「ブハッ!ゲホッ!ゴホッ…変な所に入った…!ほ、本当だったんだな…!」
「言ったじゃないの!…ねぇあなた?普通の子供が魔法を使えるようになるのは何歳くらいなのかしら?」
「うーん…そうだな…少なくとも確認されてる中では最年少で6歳くらいだな
少なくとも魔法の原理や術式を理解しないと使えないものだから、そのくらいの年齢にならないと難しいんだよ
一歳未満の子供が魔法を使えるなんて聞いた事がない…」
腕を組むハンスは感心した様子でカインを見つめた
「そうなのね!やっぱりこの子は天才なんだわ!ねぇ、もしかしたらこの子には前世の記憶があるのかも…」
「前世だって?そんな馬鹿な…しかし…もしかしたらな…
なぁカイン、お前は生まれる前はどんな人だったんだ?」
ハンスは冗談半分で聞いてみたが、カインから帰ってきた反応は想定外だった
「………グスッ」
大粒の涙を溢れさせて突っ伏して泣き始めてしまったのだ
この日を境に夫婦はカインには何かがあると確信したのだった………