There's a silver lining…
「勇者様だ!勇者様が戻られたぞ!!」
負傷者を村の中央広場に集めていた村人達が振り返ると勇者を乗せた馬車が、村の玄関から堂々たる入場を果たしていた
「勇者様!こちらです!おっしゃられた通り負傷者を集めました!」
「分かった!カザック!治癒魔法を!」
「はい勇者さま!ふっ…」
セバスチャンが似合わない勇者役を演じている姿に半笑いしながらカインは、馬車から降りて治癒魔法を発動させた
「大精霊よ我に超常たる力を!かの者達を癒し賜へ!エクスヒール!」
カインの膨大な魔力を糧に30人ほどの負傷者を囲むように現れた巨大な魔法陣は負傷者達の傷を見る見るうちに回復した
「ん…ここは?」
深い裂傷を負い、昏睡状態から目覚めた一人の村人は穴が空いていたはずの胸元や脚を触ると何事も無かったように治っていた
「う、腕が!俺の腕が!」
右腕を斬り飛ばされた村人は、自分の腕が再び戻ってきたことに驚愕していた
「あ……パパ…?ママ…?」
イワノフに蹴られ、てんかん発作を起こし瀕死になっていた女の子ノーナも目覚めた
「ノ、ノーナ…!ノーナァ!良かったぁ…!」
「うわぁぁぁ!ノーナァ!」
号泣する両親に抱きしめられたノーナはされるがままに揉みくちゃにされていた
「き、傷が…何事も無かったように…すごい…」
「あなたぁぁぁ!良かった…良かった!」
「目が…目が見える!喉も痛くない!」
あの戦いで、人民軍によって負傷者した者以外にも、催涙手榴弾のガスによって結構な数の村人が巻き添えを食らったのだ
歓喜に包まれた小さな村は次第に落ち着きを取り戻し始め、注意は勇者一行の元に向かった
「勇者様……いえ!救世主様!お恵みを…お恵みをありがとうございます!」
「主人を…子供を守って下さりありがとうございました!」
「アルス!アルスはいるか!」
村人の1人がこの村の代表であるアルスを呼んだ
アルスは愛娘を抱きしめながら妻と一緒に駆け寄り、跪いた
「勇者様方!この度はこの村を…妻と娘を救って頂き本当にありがとうございました!感謝しても…しきれません…」
涙声になりながら感謝の言葉を伝えるアルスの胸には温かい体温と鼓動を感じていた
「いや、君たちもよく持ち堪えてくれた!そのお陰であの化け物も無事討伐できたのだ!感謝するのはこちらの方だ!」
「………!勿体ないお言葉ありがとうございます!私達に出来ることなら何でもしたく存じ上げますが……見ての通り我々には明日食べる物もなく、何もお返しできません… ですが精一杯勇者様方に恩義をお返ししたいと存じ上げます!」
必死に頭を下げるアルスと共に村人全員がその場に跪き、頭を垂れた
「そうか…私たちもそちらの困窮は分かっている!無茶な要求はしない!しかし一つ条件がある!」
「な、なんでしょうか?」
村人達はその目に緊張を滲ませた
「この村で特産品を生産してもらいたい!」
「特産品…ですか?」
村人がざわつき始める
「しかし、お言葉ですが勇者様!私達にはもう畑を耕す馬も食料もありません!一体どうしたら…」
「無論!それについては私達から支援する!しかしタダとは言わない!君達にはその分、こちらの要求する特産品を作ってもらい、ツケを返済してもらうことになる!心配するな!君たち全員は私達が面倒を見てあげよう!」
「……分かりました!ですが…春風はまた我々にノルマを徴収しにくるでしょうし、それはどうすれば…」
「それも心配するな、この国のシステムでは、農地は国の持ち物だが何を作るか、それをどうするのかは自由決定の筈だ こちらの特産品を作るのも大丈夫だろう
そして、今回の件でこの国にはカリができた!ソレをちらつかせてノルマを下げさせ要求を呑ませる!
加えて、あの農地も我々の手を入れて今よりもっと効率的に耕作出来る様にしてやろう!それで良いかね?」
「………!分かりました!それでお願い致します!」
村人達は一筋の希望を見た
「それでは正式な書類は後日持参するとしよう!そして一先ずは食料だな エマ!ナターリア!」
「はい!こちらに」
エマとナターリアはゴロゴロと大きな木箱を台車に乗せて運んできた
「これは…何でしょうか?」
掌ほどのパッケージがギッチリと詰まっていた
「これは隣国で働く男達に大人気の完全栄養食 カインレーションだ!お一つ如何かな?」
カイン印が印刷された紙箱には、固形のビスケットが入っていた
フルーツ味、チョコ味と様々な味がある
一箱で肉体労働の成人男性の消費カロリーを十分に賄う事ができ、栄養価は完璧である しかもアレルゲンフリーだ 子供も安心して食べられる
「ではお言葉に甘えて……!甘い!中々美味いですね…」
「そうだろう?これを食べてれば我々の支援物資が届くまでは保つはずだ!それと…カザック!」
「はいはい、勇者様 これを」
「変な箱ですね これは一体…」
「浄水精製装置だ ここに魔石を入れると、その魔力量に応じて、清潔な水が精製される優れものだ 魔石はこちらから必要量支援するから飲水として使ってくれ」
カインは装置と人工魔石の入った小箱をアルスに渡した
「ここまですれば当面は問題ないはずだ それとこれはサンプル品なんだが、乳児用の粉ミルクと紙オムツにに婦人用の生理用品だ あると助かること間違いなしだ! あとこれも私が普段からよく使ってるローションで……」
しれっとサンプル品を与えて新規顧客を獲得する狡猾な手法は中々に有効である
そう、カインはこの村をただで救うのではない
村人に恩を売ると見せかけて、自身の商品を与えて、この国でも販路を拡大することを狙っていたのだ
あらかじめ旅の準備の際に試作品や売れ筋商品をこさえていたのもこう言う思いがけないセールスイベントが降って沸いてくることがあるかもしれないと思っていたからなのだ
勇者の威光も借りて効果倍増だ
勇者のお墨付きとなればそれに群がるのは群衆の心理だ インフルエンサー様様だ
「何から何までありがとうございます!この与えられたご恩はいつか必ずお返し致します!村人を代表して、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
「それでは皆の者!行くぞ!」
セールスを終えた勇者カイゼル(セバスチャン)を乗せた馬車は次なる目的地に旅だったのだった……………
ウェスタ・ロレーヌ編はこれで完結です!
いよいよ次はアンヌの森へ入ります
タイトルは毎回適当に決めてるんですが、最近は好きな戦中歌やプロパガンダ曲から取ってます
今回はWW1の戦中歌である
Keep the Home Fires Burningの一説からとってきました
意味は「きっと幸運が訪れる」みたいな感じですかね
こんな感じで、曲名や歌詞を散らばらせているので好きな方は探してみてくださいね
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