ムスコよ永遠に
ここはハンス邸から市街地を抜け東に20km走った国境付近
国境線の代わりだろうか、人の背丈ほどの木で作ったいかにも貧弱そうなフェンスが平原の彼方まで一列に並んでいる
あれは国境警備隊だろうか、兵士が槍を持ってフェンスの周りをウロウロしている
道は一本道でその先には検問所がありそこで何台かの馬車が検問を受けていた
ここはクラインフェルト領国の隣国であるウェスタ・ロレーヌ共和国を繋ぐ検問所である
ウェスタ・ロレーヌ共和国は特に農業が盛んな国で、国民を奴隷化して農地に縛り付け、財産は国がすべて管理すると言う新興国だ
農作物は安いが質はそこそこで中流階級からそれ以下の家庭に好まれる
そしてクラインフェルト領国とは仲は悪いはずなのだが、近年のクラインフェルト領国内での食糧事情の悪化から交易は盛んになっているようだ
また、ウェスタ・ロレーヌ共和国も自称完全自給自足を謳った国だったが、不思議なことに外貨を稼がないといけなくなったのか諸外国と交易を活発化させていた
ウェスタ・ロレーヌ共和国以前はサミュエル領ロレーヌ自治区と呼ばれる名門貴族サミュエル家の領地だったが大規模な内乱が起き国土が分断され今の形になった
ウェスタ・ロレーヌ共和国とサミュエル領エスタ・ロレーヌ自治区とが存在する
エルフの住むアンヌの森は東側をクラインフェルト領国、南側をウェスタ・ロレーヌ共和国と緩衝地帯を介して接している
今回カイン達はまずウェスタ・ロレーヌを経由した後、北に向けて進み緩衝地帯ギリギリを抜け、アンヌの森の北側から入る予定だった
エルフの長が居る村は森の北端ということだったのでわざわざ物騒な前線を進まずとも侵入できるという算段だった
「通行手形と身分を証明できるものを用意して列に並んで下さい!」
一人の兵士が馬車の御者達に指示して回っている
「よし父さん、人族用の通行手形と身分証を用意してくれ」
「分かった我が息子よ」
すっかりおままごとが上手くなったカイン達は魔族用ではなく人族用の必要書類を一式用意した
無論メイドロイド達に身分はないので、この国の身分証を偽装した 忘れているかもしれないがカインの能力は魔力を消費すれば何でも作れる力だ
このくらいチョロい
「こんにちは!ウェスタ・ロレーヌ国境警備隊だ!通行手形と身分証を!我が国へは何のようで?」
「こんにちは!ただの荷物運びですよ
これを…良い天気ですね!」
カイン伯爵、もといセバスチャンは必要書類と袖の下から1000ロレインを手渡した
「……確かにいい天気ですな 通って良し!」
兵士は金を確認し受け取ると書類も荷台も見ずに直ぐに通行許可を出した
この貧しい国では賄賂が全てなのだ
「では良い旅を、指導者に万歳! 次!」
「ありがとうございました 指導者に万歳!」
検問所のゲートが開くとカイン一行はウェスタ・ロレーヌ共和国へ入ったのだった…
ウェスタ・ロレーヌ共和国の玄関口である、スピー市は交易が盛んな地域で、ウェスタ・ロレーヌ産の作物と行商人で溢れている活気のあるマーケット街だった
「ここがあのスピー・マーケットですか 想像してたよりも随分豊かそうですね」
セバスチャンが細い目を丸くして流れゆく景色を見つめている
「えぇ、本当に 噂よりも幾分か豊かそうですね 何より身なりが少し子綺麗な気がします」
ナターリアも馬車を走らせながら道行く人を見つめている
「やっぱりいくら極貧国でもこの辺は交易の中心地だからね〜 そりゃそうなんじゃないか?」
無論ここのマーケットには人族しかいない 魔族どころか何故か道にゴミ一つ落ちていない
「いえ、それにしても綺麗すぎです ここは本当にあのウェスタ・ロレーヌなのでしょうか?」
ナターリアは何か違和感がある様子だ
「うーん…それを知るには情報がまだ足りないな、今はそれを気にするより早く目的地に辿り着くことが先だよナターリアさん 無視しろ」
カインは道行く人を横目に馬車を急がせた
数時間後………日が傾き始め辺りが暗くなる頃にはスピー市を抜けて隣の市のワッセル市へと入っていた
ここは農業地帯が広がり小規模な集落がポツポツとあるだけだった
無論は明かりはほとんど見えない
この国では平民は暖を取るだけでも精一杯で、一部の特権階級しか照明器具など使えない
カイン達は人目につかないよう、近くの林の中に馬車を隠し、拠点にすることにした
「よし、今日はここで野宿だ ナターリア、俺の食事と服を用意してくれ
セバスチャンは周囲の警戒を頼んだぞ」
「「かしこまりましたご主人様」」
1日も欠かさず風呂に入らなければ頭がおかしくなるカインは、油と土埃でベタついた元々おかしい頭を洗うために風呂に入ることにした
無論風呂場はないので、最初の頃使っていた手で魔法を使い、カイン印の高級石鹸を使ってそこら辺で身体を洗う
素っ裸になったカインは水魔法で出した大きな水球を火魔法で温めつつ適温にしていた
「これやるのもいつぶりだろうな…流石にバスタブは無理か」
カインの力を使えばバスタブなんて直ぐにできるが無駄遣いして魔力切れを起こせば、万が一の時最悪の結果を招くかもしれない
水球が丁度いい感じに暖まった頃合いで石鹸を泡立たせるために全身を濡らしていた直後だった
「カイン様、お言葉ですがシャワーを浴びるのも魔力の無駄遣いだと思いますが?」
「どわぁ!驚かすなナターリア!」
さっきまで食事を用意していたはずのナターリアがいつのまにか後ろにいた
「ご主人様、お食事の用意ができましたのでお手伝い致します」
「そ、そうか…じゃあ頼もうかな…」
家ではいつもナターリアに身体を洗ってもらっていたカインはいつも通り任せることにした
ナターリアの細い指が、全身を撫で回すように這っていく
「気持ちいいですか?ご主人様?」
「あぁ〜そこいい〜」
全身を隈なく洗われたカインは、身体の泡を流した後
近頃ご無沙汰だったためか偶にやってもらうアレをやってもらう事にした
「じゃあ今日は前の方も頼んじゃおうかな〜?」
にやけ顔になったカインは、いやらしい視線をナターリアに向けた
「うっ…わ、分かりました…」
ナターリアも顔を赤らめながら頭からゆっくりと下腹部へと指を這わせていく
最近、データの蓄積から感情が芽生え始めたナターリアは年頃の娘らしく恥じらいを覚えるようになった
「ん?どこを洗ってくれるのかなぁ?」
そんないじらしいナターリアを見てカインは鼻息荒く調子に乗っていた
「そ、それは……」
キュッと唇を噛んだナターリアは視線をナニから外して顔を赤らめていた
「そんなに言えないことなのかなぁ〜?ナターリアちゃんは〜『ドコ』に『ナニ』をしてくれるのかなぁ〜? ほらぁ!ほらぁ!」
歳の割にご立派なモノをしゃがんでいたナターリアの顔の前でぶらつかせた
その時…
「ンギャアアアアア!!」
カインは突然股間を押さえながら地面を転げ回っていた
「…ハッ!何奴!?」
ナターリアは素早く警戒体制に入ると周囲を見渡した
「どうしたナターリア!ご主人様に何があった!」
少し離れたところで警戒に当たっていたセバスチャンも悲鳴を聞き全速力で走ってきた
「け、ケダモノ!!その人から離れなさい!!」
そこにはナターリアと同い年くらいの若い女が、突き出した右手に魔力をたぎらせて立っていた
「何者だ!」
セバスチャンが女に向かって大声で尋ねた
「貴方もその賊の仲間ね!アンタなんかに名乗る名前は無いわ!」
セバスチャンをキッと睨みつけ威嚇した
「ぐぉぉぉぁぁぁ…貴様ぁぁぁ俺のムスコに何をしたァァァァ!!」
カインが気を失うほどの痛みに悶絶しながら声を振り絞った
「ふん!見ての通り拘束魔法よ!その小さいイチモツに付いてるツルが見えないのかしら!?」
カインが素早く下腹部を見ると、棘の生えた植物のツルがムスコにギッチリと巻きついていた
「お…お前、お前、お前ぇぇぇ!セバスチャン!ナターリア!アイツを捕まえて早く術を解かせろ!!早くしてくれぇぇぇ!ムスコが…………ムスコがムスメになるぅぅぅ!!」
「「今すぐに!!」」
ナターリアとセバスチャンは目にも止まらぬ速さで女と間合いを詰めた
「は?え?どういう……」
次の言葉を言い終わる間もなく女は2人のメイドロイドに張り倒され拘束された…
その瞬間、術が解けて締め付ける力が弱くなったにも関わらず、鋭い棘がムスコに刺さったままになったカインは
激痛に耐えきれず意識を失って素っ裸のままその場に倒れ込んだのだった…………