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おいでよ!アンヌの森

「いらっしゃいませ〜カイン商店へようこそ!」


可愛らしい制服に身を包んだ赤毛の豊満な少女が愛想良く挨拶する


青と白を基調にしたフリルの付いたメイド服のような制服は、この街でも屈指の可愛いさと大人気だ


「よ、ようこそ…」

赤毛の少女の後ろから恥ずかしそうに挨拶をしたのは、ヘッドホンをした淡緑のつぶらな瞳と栗毛色の髪を持つ小さな少女だった


「こら!フューイちゃん!お客様がいらしたら後ろに隠れちゃだめでしょ〜?」


「はぃぃぃ」


「じゃあもう一回だな 開店するまで時間があるしそれまで練習しといて アーニャあとよろしく」

「かしこまりました!ご主人様!」


最近、入ったエルフの少女フューイの新人研修のため久しぶりに自分の店を訪れたカインは、接客練習を見届けたあと

出勤してから10分で退勤した


「耳もなんとかなってるみたいだな」

エルフ耳を隠す事で契約を結んだフューイは、カインの幻影魔法により人間の耳として認識させるようにしているのだ


万が一のことも考えて、音は出ないがファッションとしてヘッドホンを常に付けるように指示している


随分ファンタジー要素にサイバーパンクみが増してしまったが最善策だと思ったのだ


もちろん制服も少しストリートっぽく仕上げてある コレで違和感は軽減された筈だ

デザインは裁縫が得意なアーニャが上手いことやってくれた


やってくれたと言うか『フューイたんが可愛すぎるから是非私にやらせてくれ』と血走った目で懇願してきたのだが…


正直少しキモかった…



それはそうと今日からカインは数日開けてとある場所に短期出張する予定だったのだ



カインはこの世界に生まれて5年、正確な地図もないどころか本すらロクに手に取れないこの世界はよく知らないどころか、知らないに等しかった


両親や村人の世間話や昔話くらいしか情報が入らないため、先日のフューイの来訪以降自分の持っている知識と現実が大きく乖離していることを自覚してしまった


エルフの情報なんて、人類の敵とか、小賢しい野蛮人だとか、秘薬の密売に関わっているとか悪い噂しか聞かなかったため 尋問の後、フューイの口から聞いたエルフの情報はあまりにも違っていた


フューイ曰く、エルフは昔から魔力が高い割に平和を好む民族で、自然の恵みを余す事なく使って生活している極めて清純な生活をしているのだとか 文明度も高い気がする


そして、この世界には自分のような人族以外の種族が沢山おり、まとめて人族には魔族と呼称されているらしい


人族は大抵の魔族とは対立関係にあり、小規模な紛争を起こしては、珍しい種族を攫って来て高値で奴隷として売りつける商売が国境線付近で盛んなようだ 


フューイもアンヌの森で木の実を採取していたところ道に迷い誤って国境線付近に足を踏み入れてしまったところ、密猟者に攫われてそのまま奴隷として売られてしまったらしい


隣国の長いこと子宝に恵まれない貴族に買われてからは、「お人形遊び」の趣味に付き合わされ、毎日着せ替え人形の如く服を変えられては、隅々まで鑑賞され、絵師にスケッチさせると言った特殊なプレイを強要されたらしく 

純血こそ汚されなかったが、大切なものを失った気がしたらしい


生活は悪く無かったそうだが、ある時突然新入りのメイド姿の奴隷が現れてからは、そちらに夢中になってしまったらしく

すぐにフューイは捨てられてしまったらしい


何でこうもこの世界の権力者たちは異常性癖の持ち主だらけなのか気になったが、それより気になったのは魔族だ


前に魔族の定義について調べた時に、どの資料も非常に曖昧でこれと言ったものが無かった


と言うのも情報が手に入りにくいこの世界では魔族に関する情報というのは9割がガセネタに近い なぜかと言うと人と魔族が接触する機会はまずほとんど無いからである


ではどこで会うのかと言えば人族と魔族が睨み合う最前線である


人族と魔族の共生はあり得ないと言うのはこの世界の常識であり、普遍的な事実であるとされている

人族の間で最も信仰されている宗教である「エスト教」も、神は人族に福音をもたらし、魔族は神に仇成す悪魔であるとされている


過激派の間では魔族を殺すことは神への最大級の奉仕とされており、魔族狩が横行していると聞いた

また、魔族の体の一部を妙薬として闇市場で取引されていると言う噂も聞いたことがある


とにかく情報が足りなかったのだ

世界地図なんて子供が書いたレベルの想像上のものに過ぎず、文献によって全く形が違うなんてザラだった


ましてや魔族の住む地域なんて超適当だった


『この辺にこんな感じの奴が多分いる気がするきっと』程度で

国境線から離れれば離れるほど雑になっていた


定期的に「五聖勇者」と呼ばれる5人の勇者を筆頭しにした教会の遠征隊が魔族の領地に「魔王討伐」との名目で足を踏み入れることがあるが、それもあまり信用ならない


なぜかと言うと、勇者一行が侵攻の際に仕入れてくる敵地の情報が、最大権力をもつエスト教にとって最高の信頼を持つとされている割に

東の国境線から50km程度で一進一退を繰り返しているのが現状で、それより先の地域については全く分からないからである


勇者も勇者で、教会にとって都合の良い情報を流せば、心証が良くなり甘い汁を吸えると言うことで報告内容もやや懐疑的なものばかりだった

最前線で膠着状態にある士気が低下した一兵士が考えるのは、国への奉仕よりも自身の保身である


今日の朝刊ではこんな事が書いてあった


「聖紀1605年10月24日 

神に仕えし我らが人類の誇れ、そして眩い希望たる五聖勇者様の聖なる軍勢は、第46回光還遠征にて諸悪の枢軸たる魔王ヴァルヘイムの1万の軍勢を見事駆逐せり!


神速の剣聖 勇者ハルト様は単独で敵本陣に突撃し、その聖剣を駆け抜ける疾風のごとく振るい憎き敵を駆逐なされた!


醜悪な魔族が同志たちから奪った土地、財産を見事奪還、解放することに成功したのだ!


敬虔たる神の信徒達よ!我らが光り輝くエスト神と五聖勇者様に栄光あれ!!」


…………だそうだ


仰々しい言葉で綴られた内容があるようで無い記事からは胡散臭さがプンプンと漂う


(この目で確かめなきゃな…)


この前作っておいた魔石を動力にして動く人工の馬を荷馬車にくくりつけ、ナターリアを御者として乗せた


荷馬車は揺れ軽減のためにゴム製のタイヤとサスペンションを搭載し、なおかつ馬なしでも魔石を動力にして走行できるハイブリッド式だ フレームも全て特殊軽量合金製で軽さの割に粘りが強く破断しにくい

外装はカモフラージュのために木製にしてあるが最高速度は70km/hは出る


荷馬車には色々な器具や、変えの部品、商品を積んである

商品に関してはウチの売れ筋アイテムを厳選しておりその一部のパッケージだけ魔族向けにして準備しておいた


なぜ自動車を作らずに馬車を作ったのかと言えば、悪目立ちしたく無かったからである


ナターリアもメイド服から御者らしい地味な格好に着替えさせ、目立つ要素は全て排除しておいた 


「ナターリア 必須アイテムは携帯したか最終確認だ」


「はいご主人様 通商手形、身分証、魔族手形、並びにエルフの飾り羽はこの通り携帯致しました ご主人様も分も問題ありません」



そして最も肝心なのはこのアイテム


「魔族手形」である

どんな魔族でも生まれた時からその身を証明するものとして肌身離さず持ち歩くように義務付けられている身分証のようなものだ


この魔族手形は本人の許可があれば複製が可能で、許可している間はその本人の魔力によって効果が現れ続ける

許可を取り消すと魔力が発散して効果を失ってしまう


カインとナターリアはこの魔族手形のコピーをフューイに作ってもらったのだ


そしてもう一つ、肝心なアイテムがある

それはこの「エルフの飾り羽」であり、人間領から魔族領に入った時に必要になる


これを付けているだけで魔族と認められるのだ 仕組みは魔族手形と同じで本人の許可があればコピーが作れる


万が一検問を受けたりした際に、魔族手形とエルフの飾り羽を提示すれば魔族領を往来する事が可能になる


エルフは最も人族に迫害されて来た種族筆頭のため発言力が強く、魔族にとってその効力は相当なものがありまさに万能手形だった


魔族には人族と姿形が全く同じものもいるため、見た目を変えたりする必要は特になく

この魔力の込められたアイテムが魔族としての身分を証明するために必要なのだ


それくらい人族と魔族の定義は曖昧なのだ


「よし、これを携帯してればそうそう襲撃されることはないだろう 絶対に落とすなよナターリア フューイがいないと再発行は不可能だからな」


「ご主人様こそいつも無駄に地下を複雑にしたせいでよく落とし物なさるではないですかいつも探しているのは誰かお忘れですか?」


ナターリアの無表情だが整った顔立ちからジト目で毒を吐いてくる様は何か来るものがある

というか最近は対人コミュニケーションにおけるデータが蓄積して来たのか、以前よりずっと人間らしくなって来た気がする

それに伴い少し言葉に棘が増した気もするが……


「うっ……まぁその何だ とにかく気をつけて俺の分も持っていてくれたまえよナターリア君」


「…かしこまりましたご主人様」


「そして……」


荷台に目をやると、荷物を確認しているもう一人の姿があった


185cmはある長身に整えた銀髪と口髭に、精悍な顔つきと品の良い紳士らしい黒のスーツに身を包んだ一人の顔の堀が深い男がいた


「セバスチャン これからお前にはカイン伯爵として行動してもらう これからはお前が俺の代わりにカインと名乗ってくれ」


「かしこまりましたカイン様 ではご主人様のことは何とお呼びすればよろしいのでしょうかな?」


「うーんそうだな お前の息子と言うことにしてカザックと言うことにしといてくれ あと言葉遣いも息子にかけるような感じにするよう努力してくれ」


「かしこまりましたカイ…カザック様」


「うーんもう少しこう…なんか微妙だからもう少し砕けた感じにしてくれ 怪しまれたら困る」


「………分かったよカザック」


「そう!それでいいんだよ!合格!」


元々母マリアの専属執事として開発したセバスチャンは売り物以外では唯一の男性であったのと、見た目がそれっぽかったため影武者にすることを思いついた


5歳の子供がいくら目の前で凄いパフォーマンスをやった所でまず誰にも相手にされないことは明白なため

こう言う場面で非常に役に立つのではないかといつも考えていたのだった


「ではみんなに最終確認だ、これから向かうのはどこかな?」


「アンヌの森だろ?カザック」

すっかり親父ヅラが様になったセバスチャンが答えた


「そうだよ父さん!じゃあ父さんの職業と住所は?」

カインも息子ヅラが、やけに様になっている


「職業は雑貨屋の店主、住所はクラインフェルト領マデロン地区5-66-3だ」

無論カイン商店の本当の住所だ

変に嘘つくと後で厄介なのでここは順当に行く


「では何をするのかな?ナターリアさん」


「はい、情報収集を行いながらエルフとそのリーダーと接触し友好関係を築くためです」

御者役のナターリアは、普段着ているヒラヒラのフリルがついたメイド服ではない男物のパンツを指でいじりながら答えた


「その通りだ、期間は?」


「クラインフェルト様が奥様の香水を受け取りに来られる2週間後の正午までです」


「そうだ、それが今回の旅のタイムリミットになる いささか短いが延長は有り得ない

何があっても2週間以内に帰還する 魔族領では何が起こるか分からないからいざとなればこの馬車を捨ててでも、全力で私を護衛しろ」


「「は!!」」


全力で逃げろとでも言うと思っただろうか?


代えのきくメイドロイドと、死んだら2度と復活できないカインとでは命の重みが全く異なるのだ

そんな綺麗事いうアホな熱血漢はこの世界には勇者くらいしかいない


「情報ではここから前線を大きく迂回するルートを取ってこの馬車でも約2日!アンヌの森に横道から入ればどんな罠が待ち受けているか分からない!

正面から堂々と行ってやろう!」


「ですがカザック様 危険ではないでしょうか?」

男装したナターリアが真っ当な疑問を投げかけて来た


「その時はその時だ、さっきも言った通り相手の戦力がこちらを上回っていたら、可能な限り俺を護衛しつつどんな手段を取ってでも全力で逃げろ 荷台や馬は敵の手に渡りそうになったら自動的に爆発して族もろとも巻き添えにする仕組みだ 何も与えん」


「分かりました」


「それと、念のためコレも持ってきた」

カインは赤い封蝋が施された一枚の手紙を取り出した


「ここにはフューイの血印が押された直筆の手紙と、彼女の地毛、そして写真が入っている 見つけ次第両親に渡すつもりだ カイン伯爵、君が持っていてくれ」


「なるほどでは見つけ次第ご報告致します」


「内容は両親への生存報告と、エルフの長に向けた俺たちとフューイの関係を記したものだ

筋書きは『俺たちこそが野蛮人に殺されかけていた哀れなエルフの盟友を命懸けで救出、解放したヒーロー』

…と言う感じだ 直接フューイを連れて来れればよかったんだがな、向こうにいらん誤解をさせるよりはマシだろ」

道中で人攫いと間違われたら困るのだ


「ものは良いようですね カザック様」


「その通り 真実は時に無意味なのさ」

ジト目で見つめてくるナターリアを軽くあしらった


「では行こう!目指すはここから迂回ルートを経由して100km東のエルフ領アンヌの森の北端!いくぞ我が愛馬ブジョーンヌイ!!」


「ヒヒーン!!」

雄々しく雄叫びをあげた愚将と噂の英雄ブジョーンヌイの名前を授けられたカイン製の600馬力の馬は勢いよく走り出したのだった………


今晩は!寒いので晩飯はとんしゃぶにしようと思いながら、今回ようやく章管理を覚えたので、色々編集して読みやすくしてみました!いかかでしょうか?

昨日、書くのめんどくさくなって放置してたのですが、続けて読んでくださる読者様のお陰でやる気を持ち直せました!

良ければ感想やポイントもよろしくお願いします!


物語はまだまだ序盤ですので今後の展開にご期待ください!

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